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可愛いと言われることが重要じゃない。
今、俺の目の前でどう答えるのが正解か分からず、くりくりとした瞳でこちらを伺っているこの、
「恋人」の「有 岡 大貴」に可愛いと言って欲しい。
そこが最近の俺を面白くなくさせてる。
ねえ、大貴。言ってよ。
俺にも「可愛い」を頂戴。
楽屋がガヤガヤと盛り上がる中、大ちゃんは何か考えているような顔をしたり、何かを思い出しながら髪を弄ったりと忙しない。一通り動くと、ひたすらに目の前の大ちゃんを見つめ先ほどの返答を待つ俺を一瞥すると、ようやく大ちゃんの口が開く。
「…伊野尾ちゃんだって可愛い時あるよ」
「いつ？歌番組で抜かれた時？番組で女装した時？撮影でアイドルポーズきめてる時？」
「え、え？あ…の、いや」
「いつ？ねぇ、いつ？」
大ちゃんにしては少し小さめの声で紡がれたその言葉に、間髪入れずに詰め寄る。あまりの勢いに辿々しくなる大ちゃん。好きな子からの『可愛い』の続きが欲しい俺は、もう一度「俺、可愛い？」と、今度はしっかりと目を見つめて、大ちゃんの耳に残るようにはっきりとした言葉で聞いた。
「俺と…一緒にいる時、とか？」
「大ちゃんと？」
「うん、可愛いよ、俺の話を楽しそうにニコニコ聞いてるところとか……寝起きでぽやぽやしながら『おはよう』の挨拶してくれたとき…とか可愛いなって思うよ」
そう指折り数えながら、恋人の『可愛い』ところを一生懸命に伝える大ちゃん。「あ、でもこれ、可愛いって言うより『愛おしい』って気持ちに近いかも」なんて少し恥ずかしそうにはにかんだ姿が、とんでもなく愛おしくて。俺の中に居た面白くない感情はとうにどこかへ飛んでいって、俺の中は『特別』な可愛いで満たされる。
「もしかして、俺が高木にばっか可愛いって言ったから怒ってたの？」
「ちょっとだけ。」
おずおずと尋ねる大ちゃんに甘えるように柔らかな声で答える。
俺が素直に返すと思っていなかったのか、大ちゃんは頬をかきながら、口を尖らせ足元に視線を落とすと「いのちゃんはカッコいいとこも可愛いとこもいっぱいあるけど、俺が言わなくったって、いのちゃんの可愛いとこ…皆んなが言ってくれてるじゃん」と居心地悪そうにプルパーカーの紐をいじった。器用にリボン結びを完成させようとするその手を取って、大ちゃんの体ごと自分の腕の中へとおさめる。
「大ちゃんからの言葉が欲しいの。」
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作者名：ttyuuu | 作成日時：2022年3月6日 1時
