【twst】賽は投げられた (ページ16)

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「…へえ、護身術ですか。フロイドが気に入るくらいのものなら余程素晴らしい戦いだったのでしょうね。是非僕も一目見たかったです…」

「クマノミちゃんの喧嘩、ぴょんぴょん飛んでてちょー面白かった！」

どうやらこの回答と微笑みでお二方は満足してくれたらしい。フロイドに至っては先程下がり始めていた機嫌はすっかり治ったみたいだ。

やはり馬鹿正直に説明などせずに常識的かつ地味な回答をしたのは吉だった。変に嘘を吐いていてもこの二人に通用するはずがない。

俺は再度二人に顔を向け控えめに微笑んでおいた。とりあえず笑っておけばなんとかなる、乗り切れるはず。

「アハッ、クマノミちゃん笑ってんの。可愛いねぇ」

「フフッ…僕たち二人に囲まれて怯えない方なんて実に珍しいですね」

…あれ？気のせいだと思いたいんだが、なんだかこれ物凄く雲行きが怪しい感じが…

二人の不気味な笑みに俺の背筋にはゾッと寒気が走った。不穏すぎる雰囲気に全身の毛穴から汗が噴き出るような不快感に苛まれる。

もしかして何かやらかした？笑ったのがダメだったのか？殺される？これは殺される感じ？

無理だ、怖い。怖すぎるぞこのふたり。俺には到底手に負えない。負えるはずがない！

「あの…もうそろそろ解放してもらってもよろしいでしょうか？授業もありますし…」

「えぇ～…クマノミちゃんもう行っちゃうの？」

「“解放”ですか…別に捕獲したつもりは御座いませんがね」

笑顔を貼り付けたまま語るフロイドの片割れに更に寒気がした。

…ああ、なんだかまだ全然フロイドの方がマシな気がする。この人は確実にヤバイ。圧が凄い。

「はぁ、僕たちはまだまだ転入生さんと親睦を深めたいのですが…」

「オレもまだクマノミちゃんと一緒に居たい～」

ずっしりと圧をかけてくる片割れとぐずるフロイドに俺の精神は限界に近付いていた。できることなら今すぐ逃げたい。

青ざめてしまいそうな顔を必死に隠す俺に、フロイドの片割れはそうっと頬に手を添えて耳打ちした。

「放課後、是非もう一度ここでお会いしませんか？…ああ、もし断るようでありましたら___」

その後の言葉は聞かなくてもわかる。きっとこれを了承しなければ今絶対に逃してはくれない気だ。それこそ“捕獲”である。

俺は辛うじて無理矢理微笑み掠れた声で「わかりました」と告げた。

…逃げるようにモストロラウンジを後にした俺の背後で微かに笑い声が聞こえた。