０日目52 ページ5
「ま、俺が烏野高校だったらクセやらなんやらで多少分かったかもしんないけどね」
「マジスか」
「やっぱすげーなお前」
川西と山形の言葉を受けて天童は得意げな顔をするが、まあ俺白鳥沢だからかんけーねーケド、とすぐにどうでも良さそうな表情に戻る。
「…………それは、裏を返せば白鳥沢の者なら嘘をついていたら分かりやすい、ということか」
一瞬、場が凍りついた。彼の言葉はこの中に、短くない時間少なくない熱量で共にバレーに打ち込んできたチームメイトの中に、敵がいるのではないかと疑いをかけるものであった。
「……さあ、そりゃ実際にそういう場面にならないとわかんないよ。ま、マブダチのことなら絶ッッ対分かる自信あるけどネ！若利クンは村人陣営、デショ？！」
骨ばった人差し指と中指で銃のような形を作り天童は隣の席に座る牛島に向けて撃つ動作をする、対して牛島はああ、そうだな、といつもの無表情で簡潔に答える。この場に似つかわしくないおどけた動作で牛島にちょっかいをかける彼に白布が射抜かんばかりの視線を送っていたが、特に気にする様子もなく若利くんは村人陣営で〜す、などとおちゃらけた言動を重ねていた。平時とは違うことばかりのこの場所で彼だけがいつもと同じ調子でいることに、まだ日常は消えていないのだと川西は無意識に安堵を覚えていた。
「あの、白鳥沢の皆さん、よかったら麦茶の方いかがですか？」
「今あっちで入れてきたんスよ！」
そんなさなか不意に声がかかり八人は視線をその方向へ向ける。そこにはどこかおどおどしたバレー部にしては背の低い少年と、対象的におそらくここにいる誰よりも背の高い溌剌とした銀髪の少年が、紙コップに入った飲み物を数人分盆に乗せて立っていた。
「ああ、わざわざありがとな、えっと……確か、」
「音駒高校一年の灰羽です！」
「同じく、一年の芝山です」
瀬見が愛想よく返事をするも名前が出てこず言いあぐねていると、彼らの方から自己紹介がなされた。芝山と名乗った生徒はそのままテーブルに紙コップを置いていこうとするため、近くにいた山形と瀬見がそれを手伝う。みんなで同時に行っても混むだろうと隣の厨房に足を運ばなかった白鳥沢の面々であったが、度重なる緊張の連続の先の飲み物はまさに恵みと言えた。周りを見てみれば、おそらく同じ学校に所属するであろう生徒たちが、各学校の固まっている机に同じように飲み物を配って回っていた。
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作者名：世界の真ん中で | 作成日時：2023年5月18日 12時
