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身体が痛い。何処も彼処も痛くて、焼ける様に熱い。
「っA!」
『…しのぶ、さん?』
「あぁ…良かったあ…」
私の手を握ったまま、ベッドの傍にへたりと座り込んでしまったしのぶさん。
身体の痛みとこの状況に、記憶を呼び戻す。
確か戦いに出て鬼を前にしても思考が整わないままで、それを掻き消すように刀を振るったんだ。
「Aがこんな怪我をするのは久しぶりだったから、私…」
そう言って手に力を込めたしのぶさんの頬には、涙が伝っていた。
『泣かないで下さい、しのぶさん…』
自由な方の手でその涙を拭うと、少し高めの体温に愛しさが募った。
思い出した。私は自分のした事が許せなくて、自分の気持ちが許せなくて、いっその事消えてしまいたいと思っていた。本当に集中すれば此処まで大きな怪我はしなかっただろう。私自身が、この身を傷つける事を望んだのだ。
そして…
『(あの夢は…)』
色も何も無い、真っ白な世界だった。
夢の中の彼女はただ私に優しく微笑むだけで、私は苦しかった。それでも、
「お願いだから、自分をそんな風に扱うのは辞めて。貴女にもしもの事があったら私っ…」
泣きながら懇願する様に見つめてくるしのぶさんの細い腕を引いて、抱き締める。
初めて触れた身体は見た目よりもっと小さくて、壊れてしまいそうだった。
『…しのぶさんが悲しむのは、嫌です。貴女との世界に悲しい色が在ると、私は如何していいのきか分からなくてなる。』
私の胸元をぎゅっと握って、ぐすんと鼻を鳴らす彼女の頭を、そっと撫でる。
愛しいと思うこの気持ちに、嘘は無い。そしてこれ以上の気持ちも無い事も、本当はとっくに分かっていた。
自分の気持ちに素直になる事、愛と向き合う事。それが出来た時、世界は優しい色で溢れる。それを思い出させてくれた彼女と、許してくれた彼女。
『…しのぶさんが、好きです。』
「っ…」
『私は許されない罪を犯しました。誰がどんな風に言おうと、私が自分を許す事は無いでしょう。それでも貴女は…』
続けようとした言葉は、柔らかい唇に飲み込まれていった。
「…それでも私は、貴女を愛してる。」
唇を離して、瞳を潤ませたまま微笑む彼女が可愛くて、もう一度唇を重ねる。
君には心配を掛けてばかりだったね。
まだ弱虫な私だけれど、守りたい人が出来たんだ。
何時か一緒に花を手向に行くから、待っていてね。
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廣岡唯 - 面白い続きが観たい… (11月12日 17時) (レス) @page22 id: 4e6dbece94 (このIDを非表示/違反報告)
天霧(プロフ) - めっちゃ最高です。続きが気になります。更新気長に待ってますので頑張ってください! (2021年9月27日 22時) (レス) @page22 id: 8490818b21 (このIDを非表示/違反報告)
儚(プロフ) - 七稀さん» 七稀さん、読んでくださってありがとうございます。ゆるゆると更新していくので、これからもよろしくお願いいたします! (2020年5月17日 2時) (レス) id: 375c81672d (このIDを非表示/違反報告)
七稀(プロフ) - めっちゃ好きです!これからも楽しみにしてます!! (2020年5月16日 21時) (レス) id: e9601a34de (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夕月 | 作成日時:2020年5月9日 2時