夢心地ってあほらし (ページ21)

今日:5 hit、昨日:4 hit、合計:15,035 hit

、ページ21

「俳優？なんで？」

「だって色んな役を経験できるんだよ。肩書きは俳優なのに、ドラマの中では【刑事さん】や【学校の先生】、【お医者さん】、【高校生】上げだしたらキリがないよ。」

目をキラキラさせながら俳優という職業について語り出す。
北斗ってそんな芸能の世界に興味あったっけ？

「俳優興味あるの？」
「いや別にそんなんじゃないけどさ。羨ましいなって。そう思っただけだよ」

そんなこと思ってたなんて知らなかった。ドラマだって見てるところあまり見たことないし。

「憧れの俳優さんがいるとか？」
「だからそんなんじゃないって。」

笑いながら言ってるけど、きっと他の理由があることぐらい生まれてからずっと一緒にいる俺にはわかる。

「他の人になりたい」
「えっ？」
「それが本当の理由でしょ？北斗が俳優に憧れるのって」

驚いたような顔で俺のことを見る北斗は、違う。とでも言いたそうなそんな苦しい顔をしていた。

「それが本当だとしたら、樹引く？」
「そんなことで引くような男じゃないよ、俺。」

優しい声で言ったのに北斗の目には涙が溜まっている。

「俺ね自分じゃない誰かになりたいんだ。自分以外の何者でもいい、ただ別の誰かになれればそれだけでいい。」

何処か自分自身に呆れているように話す北斗はもうとっくに諦めていたのかもしれない。この夢は誰にも言わないと決めていたのかもしれない。

「俺ね自分を殺したくなるくらい自分のことが嫌いで他のみんなが羨ましくて、いつも誰かに憧れてた。樹のことだってそうだよ。なんでも出来る完璧なお兄ちゃんで俺のことをいつも傍で見守ってくれて。」

そんなこと思っててくれてたんだ。
「大丈夫北斗は北斗のままでいいんだよ。」
そんな綺麗事無責任に言えないし、俺のことをちゃんと頼れる兄弟だと思ってくれてたことが嬉しくてただ無言で抱きしめる。

泣き虫でなんでも否定的に考えちゃう弟だけど、面倒見があってかわいいと思っちゃうのは俺が相当北斗に対しての想いが強いからなのかな。

「お前泣き顔ブサイクだな。」

泣き顔の北斗にそっと触れる。ぽたぽたと零れてくるその涙を親指で拭ってやれば幼い頃のように「じゅりー」なんて泣きついてくる。

まるで数分前に見た恋愛ドラマのワンシーンみたいに。