[六章]-10 ページ49
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「……今言うてくれたんもそうやし、カラスに踏まれながら言うてたんもそうやし。そこまで私がきみにとって、大事になってるとは思いませんでしたわ」
そう囁く狐さんの声は穏やかで、更に頬が熱くなる。照れ隠しとばかりに、狐さんの着物に顔を埋めた。私の声は少しくぐもって、聞こえづらくなっただろうか。頭上で狐さんが喉を鳴らして笑ったような気がする。
「……私だって、言ってから気づいたようなものだもん」
「まぁ、そんなきみが私を祓いに来た初めて会うたときのことも、今となっては良い思い出やな」
「……思い出すとなんか、凄く未熟だったなって……」
「そう感じられるんは成長した証ですなぁ」
狐さんは撫でる手を止めて、私の頭の上に自分の顎を乗せてきた。顎の先が刺さって少し痛い。顎ってこんな尖ってるものなんだなぁ。と、考えながら痛みを軽くしようと片手を頭上へ伸ばす。
「痛いよ」
「そうか」
「うわ、ぐりぐりするの止めて」
「A」
顎を乗せるのを辞めたかと思えば、唐突に狐さんの声が耳の側で聞こえた。狐さんの心地良い低音が何故だかいつもと違う風に聞こえるし、その声が紡いだのは私の名前だ。背筋が震えたような気がする。なんだ、
「……初めてまともに呼んだ」
「名前呼んだら、愛着湧いてまうらしいからな」
それ犬や猫とかの動物の話じゃないのか。くすくすと小さく笑みが溢れた。
「そしたら、狐さんも私のことが大事になってしまうね」
「残念、手遅れや」
あーあ、と態とらしい溜め息を吐く。声色は何だか楽しげで。
「やっぱ、狐さんて変な妖怪だよね」
「褒めてるん?」
「うん、あったかいから」
「それは物理的に?精神的に?」
「んーん、両方」
眼鏡の奥の瞳が微笑んだ。
「Aもやわ」
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朝霧(プロフ) - 丸メガネさん» 語彙力が無くなる程とは……有難いお言葉、本当に嬉しいです!しっかり完結させるつもりですので、これからも気中に読んで頂ければ幸いです。有難うございます! (2018年8月17日 11時) (レス) id: eaa2cca1e2 (このIDを非表示/違反報告)
丸メガネ(プロフ) - え、もう好き。語彙力無くなるくらい好きです。お忙しいとは思いますが、どうか更新停止せず完結まで持っていってください。お気に入りに追加してるので通知いつも楽しみにしてます。頑張ってくださいね! (2018年8月16日 23時) (レス) id: 2b4c29f1fe (このIDを非表示/違反報告)
朝霧(プロフ) - SAKANAさん» コメント有難うございます、お気に召された様でとても嬉しいです!小説内の進展速度は遅いですが、これからも何卒気長に見守って頂ければと思います……!更新頑張ります! (2018年8月13日 16時) (レス) id: eaa2cca1e2 (このIDを非表示/違反報告)
SAKANA(プロフ) - こういう小説すきです…とても好きです、ありがとうございます…更新頑張ってください陰ながら応援しています… (2018年8月12日 23時) (レス) id: a3a9931e24 (このIDを非表示/違反報告)
朝霧(プロフ) - 咲良さん» 有難うございます、初めてコメントを頂けたので本当に励みになります。これからも何卒宜しくお願いしますね! (2018年8月3日 0時) (レス) id: eaa2cca1e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朝霧 | 作成日時:2018年7月24日 4時