[序章]-4 ページ5
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気が付けば、私は廊下に倒れていた。何が起こったのか一瞬脳内で処理がし切れなかったけれど、恐らく。
勢いよく踏み込んで斬りかかった私に足を引っ掛け、衝撃の無いように片手で私の背中を支えつつ寝転ばせた……というところだろうか。僅か数秒のこの間に。
「妖力使うこともあらへんかったなぁ、まだまだひよっ子ですね。もうちょい強なってからまたおいで」
「……(ええー)」
こんなにも敵わないものか。今までに何度も妖怪は祓ってきたけれど。ここまでの大妖怪とは初めて出会ったが……いや本当に、ここまでとは……。
私は廊下に大の字に寝転んだまま、腰を折ってこちらを覗き込むようにしている狐さんを見上げた。
「踏み込むタイミングを見計るのは悪ないですよ、構えも姿勢も。ただ踏み込みが甘いのと……あとは、込める力が分散してしまってるのがあかんのかなー」
「(……凄い指摘されている。そして的確だし)」
完全に敗北した上、指摘も入れられるとは。情けない感情が胸を侵食していく感覚を抑えて、肩を竦めて大きく息を吐いた。寝転がる私に対して狐さんが差し出してきた片手に、何故だか素直に掴まる。
「(……手ぇ取ってしまった)」
「よいせっと」
ぐっと力強く引き起こして立ち上がらせ、私が立ったのを確認して狐さんはぱっと手を離した。手が離されてふらつき何も言えずにいる私の頭を、不意に柔らかくぽんと一つ撫でた。
「え」
頭に触れた優しい感触に私が戸惑う様子を気にも留めずに、くるりと着物の裾をはためかせながら歩き出す狐さん。目線だけをこちらへ向けて、緩く口角を吊り上げた。
「玄関まで送っていったろか。それとも、家まで送った方がええですか?」
「かっ……帰れるよ、ちゃんと」
「そうですか」
それならええです、とそのまま廊下を歩いて行く狐さんについて行く。いやどうして私も素直について歩いているのか。撫でられた頭にそっと片手で触れた。
祓う目的だった狐さんだが、今の自分では到底敵わないことを痛感した。依頼主も妖怪だという話もあるし、依頼を続行するか中断するか、もう一度話をしないといけないなぁ。
兎角今回は一旦引こう……と考え込んでいたせいか、狐さんが「あ」と立ち止まったことに対応出来なかった。
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朝霧(プロフ) - 丸メガネさん» 語彙力が無くなる程とは……有難いお言葉、本当に嬉しいです!しっかり完結させるつもりですので、これからも気中に読んで頂ければ幸いです。有難うございます! (2018年8月17日 11時) (レス) id: eaa2cca1e2 (このIDを非表示/違反報告)
丸メガネ(プロフ) - え、もう好き。語彙力無くなるくらい好きです。お忙しいとは思いますが、どうか更新停止せず完結まで持っていってください。お気に入りに追加してるので通知いつも楽しみにしてます。頑張ってくださいね! (2018年8月16日 23時) (レス) id: 2b4c29f1fe (このIDを非表示/違反報告)
朝霧(プロフ) - SAKANAさん» コメント有難うございます、お気に召された様でとても嬉しいです!小説内の進展速度は遅いですが、これからも何卒気長に見守って頂ければと思います……!更新頑張ります! (2018年8月13日 16時) (レス) id: eaa2cca1e2 (このIDを非表示/違反報告)
SAKANA(プロフ) - こういう小説すきです…とても好きです、ありがとうございます…更新頑張ってください陰ながら応援しています… (2018年8月12日 23時) (レス) id: a3a9931e24 (このIDを非表示/違反報告)
朝霧(プロフ) - 咲良さん» 有難うございます、初めてコメントを頂けたので本当に励みになります。これからも何卒宜しくお願いしますね! (2018年8月3日 0時) (レス) id: eaa2cca1e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朝霧 | 作成日時:2018年7月24日 4時