[五章]-6 ページ38
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私は狒々さんの腹部を蹴り飛ばして僅かな距離を開け、刀を引き抜いて構えた。蹴り入れても余り手応えは無く、狒々さんは腹部を摩っているだけだ。
肩で息をする私は、先程の狒々さんが
狒々さんは未だ面白そうに笑みを浮かべているけれど、今の私の一撃で確実に戦闘態勢に入ったのが分かる。
「ええなぁ、やっぱりええわぁ」
「(はぁ……!?)」
そう呟く狒々さんの瞳は、ギラギラとした獣の目をしている。獲物を前にした獣の目だ。私は何故狒々さんが私を殺そうとしたのかが未だに全く分からず、強大な妖気に呑まれ思考が鈍る頭を懸命に働かせた。
「(なんだ、なんだ……。今までに祓った妖怪が狒々さんの友人だったとか…!?考えろ、私を殺そうとした訳を……仇か、復讐か、じゃあ何であんな楽しそうなんだ…!?)」
「行くで〜」
気の抜けた声が聞こえたのと同時に、視界から狒々さんが消えた。瞬間、私は地面に倒されていて、やはりニタリと笑っている狒々さんが私の上に馬乗りになって、身体を押さえつけていた。
然しそれでも身体が反射的に反応して、微かではあるものの刀で狒々さんに傷を付けることは出来た。
私の腕を掴む狒々さんの手は、よく見ると爪が伸びており獣の様な毛が生えている。恐らく妖気を解放したからだろう。きっと、狒々さんのこの爪で引っ掻かれれば確実に命を落とす。良くて重傷だ。
「なんでこんなことするんかって?ワシなぁ、元々喧嘩大好きやねん。戦闘妖怪って言うたらええ?けど最近はもう平和も平和、血ィ見ることもまー無いわ」
狒々さんは私の首に爪を当てた。
「それはそれでええんやけど。けどさぁ、この前会うたワトソン君が女の子連れとって、それがしかも祓い屋ーって言うやんか。興味出てん」
ぐっと、僅かに爪に力が込められた。ピリッとした感覚の後、何か生暖かいものが流れたのが分かる。
「ワシからしたら人間とかどーでもええし、もしおもんない人間がワトソン君の近くにおるっていうんなら、殺してもうても全然良かってんけど」
小さな痛みを堪え狒々さんを見上げると、彼は顔を近づけた。
「まぁええかぁ。キミ、オモロイわ」
狒々さんは私の首を流れた生暖かい何かを舌で舐めとると、私の身体の上から退いた。狒々さんの言葉にもその行動にも何も言えないまま、自分で身体を起こして立ち上がる。
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朝霧(プロフ) - 丸メガネさん» 語彙力が無くなる程とは……有難いお言葉、本当に嬉しいです!しっかり完結させるつもりですので、これからも気中に読んで頂ければ幸いです。有難うございます! (2018年8月17日 11時) (レス) id: eaa2cca1e2 (このIDを非表示/違反報告)
丸メガネ(プロフ) - え、もう好き。語彙力無くなるくらい好きです。お忙しいとは思いますが、どうか更新停止せず完結まで持っていってください。お気に入りに追加してるので通知いつも楽しみにしてます。頑張ってくださいね! (2018年8月16日 23時) (レス) id: 2b4c29f1fe (このIDを非表示/違反報告)
朝霧(プロフ) - SAKANAさん» コメント有難うございます、お気に召された様でとても嬉しいです!小説内の進展速度は遅いですが、これからも何卒気長に見守って頂ければと思います……!更新頑張ります! (2018年8月13日 16時) (レス) id: eaa2cca1e2 (このIDを非表示/違反報告)
SAKANA(プロフ) - こういう小説すきです…とても好きです、ありがとうございます…更新頑張ってください陰ながら応援しています… (2018年8月12日 23時) (レス) id: a3a9931e24 (このIDを非表示/違反報告)
朝霧(プロフ) - 咲良さん» 有難うございます、初めてコメントを頂けたので本当に励みになります。これからも何卒宜しくお願いしますね! (2018年8月3日 0時) (レス) id: eaa2cca1e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朝霧 | 作成日時:2018年7月24日 4時