[三章]-5 ページ26
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「……!」
狐さんに切り掛かろうとしていた姉さんは、私が間に入ったことにより、その動きをぴたりと止めた。姉さんの持つ刀の切っ先が目の前にあるけれど、私はそこから退くことは無い。
「A」
姉さんが名前を呼ぶ。何だか複雑な、色々な感情が混じった声色だったけれど、私は狐さんを背に姉さんを真っ直ぐに見る。
暫くの沈黙の後、深い溜め息が聞こえたのは姉さんからだった。刀を下ろして、鞘に収めながらその場から離れていく。
「……いいわ、譲ってあげる」
「へ?」
「その妖狐の討伐、Aに譲ってあげるわ。私は手を引くから、頑張りなさいな」
そうして私が何を言う間も無く、姉さんはひらりと踵を返し立ち去って行った。
あの姉さんが、あんなにあっさりと引き下がるなんて。もう少し納得されるまでに時間がかかるか、最悪の場合私が姉さんと戦うことになるかも知れないと思っていたのに。
私は呆然とその姿を目で追うばかりで、やっと我に返ったのは狐さんに話しかけられてからだった。
「……ちょっと、阿呆なんちゃいますか」
「……え、え。阿呆って」
「あの人が寸前で止まったから良かったものの。下手したら勢い余って、きみもスパーンなるところやったんですよ」
働かない頭のままで見上げると、狐さんは少しだけ眉間に皺を寄せていた。何でそんな顔を。……これは、心配されているんだろうか。
私の両肩に手を置いて、狐さんは俯いて視線を逸らした。俯いても、背が高いから顔は見えるのだけど。珍しく、歯切れが悪い調子だった。
「……、目の前で斬られたら、寝覚め悪いでしょうが。私はある程度は強く出来とるんやから、大丈夫ですよ」
「……でも、嫌だったから」
狐さんの言葉は理解出来るし、その通りだった。妖怪の身体は人間より丈夫だし、恐らく怪我をしても治りは早いだろう。
だけど、狐さんが斬られてしまうのは嫌だったし、何より。
「狐さんが姉さんに祓われちゃったら、もう話せなくなるじゃんか」
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朝霧(プロフ) - 丸メガネさん» 語彙力が無くなる程とは……有難いお言葉、本当に嬉しいです!しっかり完結させるつもりですので、これからも気中に読んで頂ければ幸いです。有難うございます! (2018年8月17日 11時) (レス) id: eaa2cca1e2 (このIDを非表示/違反報告)
丸メガネ(プロフ) - え、もう好き。語彙力無くなるくらい好きです。お忙しいとは思いますが、どうか更新停止せず完結まで持っていってください。お気に入りに追加してるので通知いつも楽しみにしてます。頑張ってくださいね! (2018年8月16日 23時) (レス) id: 2b4c29f1fe (このIDを非表示/違反報告)
朝霧(プロフ) - SAKANAさん» コメント有難うございます、お気に召された様でとても嬉しいです!小説内の進展速度は遅いですが、これからも何卒気長に見守って頂ければと思います……!更新頑張ります! (2018年8月13日 16時) (レス) id: eaa2cca1e2 (このIDを非表示/違反報告)
SAKANA(プロフ) - こういう小説すきです…とても好きです、ありがとうございます…更新頑張ってください陰ながら応援しています… (2018年8月12日 23時) (レス) id: a3a9931e24 (このIDを非表示/違反報告)
朝霧(プロフ) - 咲良さん» 有難うございます、初めてコメントを頂けたので本当に励みになります。これからも何卒宜しくお願いしますね! (2018年8月3日 0時) (レス) id: eaa2cca1e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朝霧 | 作成日時:2018年7月24日 4時