たくさんの愛に包まれて２ (ページ10)

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忘れようとしてんじゃんページ10

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「そんな嫌そうな顔すんなよ」

『………別に、』

誰も来ないような廊下で、距離を保ちながら小さな声で返事をする。

勇人の顔は一切見ない。

何でこんなことになっているんだ。

－少し話そうや－

「久しぶりだな、」

『…、初めまして、何でしょ？』

「…いや、あれは」

『もう、昔の話だもんね』

そうだ、

別れた時に思ったんだ。

あたしは何も無くしてない、誰とも付き合ってない。

あなたに出会う前に戻っただけ。

そもそも彼と出会って付き合ったことは奇跡なんだから。

出会わなかったことにしておけばいいって、蓋を閉じた。

あれは、夢だったんだって。

『もう、いい？』

「長さんと、付き合ってるん？」

『…、』

付き合ってないよ。

でも好きになりたいとは思ってる。

だって長野さんがこんなにもあたしを大事にしてくれているから。

『勇人には…関係ない、よね』

「……そ、やな」

『…じゃあ、ね』

勇人に背を向けた。

もう一生会うことはないだろう。

あたしはテレビや試合で見ていても、彼があたしに会うことはもうない。

それでいいんだ。

「A、」

『…』

「ちょっと待てって、」

『っなによ』

「…俺は、ほんまにAが好きやった」

『、っ…』

「もう関係ないかもしれへんけど…それでも、好きやったのはほんまやから」

『っ…』

「なんていうか……その、」

『、』

「……また、来いよ、」

『…』

「長さんのためにも、な…？」

『っ』

「…じゃあ、それだけ」

またな、

そう言った勇人は、あたしより先にその場を去った。

ゆっくりゆっくり、自分の行くべき場所に戻っていった。

『っ…ふざけんな』

忘れようとしてんじゃん。

必死で忘れようとしてんのに、それはないよ勇人。

忘れられないよ、優しくなんてしないで。

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