月の雫２(K.Nakajima)

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…



一時間ほどして落ち着いてきたAを、家まで送ることになった。
営業の人達には、なんで俺が送るんだろって色んな人に見られたりしたけど。




「中島くん、Aちゃんのこと、よろしくね。」




結衣子さんが、みんなの前で言ってくれて。
営業の人達と部屋にいた他の部署の人が察してくれたことで、俺達のことが社内で知られていくのは時間の問題になった。




「はい、ちゃんと送り届けますから。」


「…すみません、お先に失礼します。」




隣でAが恥ずかしそうに頭下げてる。まぁ、いきなりだから当然か。

俺は、公になって嬉しいんだけど。



社用車に二人で乗るなんて、久しぶりだった。

あのときは、もうAのこと好きだったから。途中で結衣子さんに電話で怒られて悲しそうにしてるAのこと、なんとか笑顔にしたいって思ってたっけ。



「健人、仕事いいの?」


「大丈夫だよ。無理なら送ったりしない。」




本当はちゃんと、話したいけど。今はAの体が最優先だと思うから。
敢えてその話題には触れないようにしてたんだ。でも。



「ねぇ…あの、チョコくれた人って取引先の人なの?」


「うん。実は大学の先輩で、コラボの担当で偶然会ってさ。松岡さんも一緒に仕事終わりで一度ご飯行ったことはあるんだけど…。LINEで、彼女がいるってことは伝えた。」


「そう…。」


「仕事でグループあってさ。連絡先だけは、知ってるから。」




過去のことは、あえて話すつもりはなかった。もう、終わったことだから。




「ごめんね、苦しい思いさせて。ホワイトデーの仕事が終わったら、もう、会うことないから。」



「仕事、だもんね。うん。分かってる。」




ちょうど信号待ちで、周りに人もいない。




「…っ、」



ほんの一瞬だけ。
いいよね。


タイミング良く、信号が青に変わる。




「外なのに…。もう、なんで?」




Aが文句言ってるけど。やっと、表情が優しくなったね。


ちゃんと、伝わったって思っていいかな。

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