月の雫４(K.Nakajima)

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…



慌ただしく朝の会議が終わり、ホワイトボードを消してると、




「お疲れさま。」




ドアの方から、健人の声がした。


嬉しくて振り返ると、次の瞬間、健人が伏し目がちにふっと笑う。




「どうしたの?」


「…いや、そんなに嬉しそうな顔されると照れるよね。会社だし。」




そうだった。

健人の声に、つい、ここが会社だってことを忘れてしまってたかも。




「なんか、いいね。」


「ん?」


「ホワイトボードを消す後ろ姿がね。色っぽくて。」


「…ここ会社ですけど。」


「セクハラとか言わないよね?」


「もう…、今日は忙しいんじゃないの?」


「忙しいから、ここに来たの。」


「え?」



意味が分からなくて、聞き返す私に。
ドアに手を掛けて、健人が満足そうに笑う。

その笑顔がカッコ良くて。


思わず見とれてしまってた。




「さて、充電できたから行ってくるね。」


「…行ってらっしゃい。」




見送る私に手を振って。
エレベーターの方へ歩いてく。



充電、しに来てくれたんだ。
忙しいから今日は会えないと思ってたのに。


ほんのわずかな時間でも。こうやって会いに来てくれるのが嬉しい。



だめだ。
全然仕事モードにならないよ。
昨日までの３日間が夢のようで、まだ、夢の続きを引きずってる。



ホワイトボードの残りを急いで消して。席に戻ると風磨くんがラッピングされた小さなかわいい箱を差し出してくれた。




「何、これ?」


「Aホワイトデーおやすみだったから、ね。」


「ありがとう…あれ?私バレンタイン…。」




言いかけたところで風磨くんに、しぃ、って指で制されて。




「営業の女の人みんなに渡してんの。A以外は義理くれたから。」




こそっと打ち明けて、足早に去っていく。

なんか、悪いことしちゃったな…。風磨くん、気を使ってくれたんだ。私だけ渡してないってあとから知って困らないように。

意地張らずに義理チョコ渡せば良かった。なんで、私いつもこんななんだろう。

もっと、人の気持ち考えなきゃいけないのに。

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