記憶(R.Miyadate) (ページ6)

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…

「Aちゃんっ！」

店の前を掃除していると、息を切らせて宮舘様がやって来た。

この人の、お嫁さんになるのだと思うと、思わず頬が熱くなるのを感じた。

「…親父さん、ちょっとAちゃんと話をさせてもらってもいいかな？」

「おお宮舘様、どうぞそこの部屋をお使いください。」

掃除もそこそこに、客間に入ると。宮舘様がいつもより柔らかな表情で私を見つめた。

「照から、あ、この間ここに来た俺の従兄弟なんだけど。そいつから縁談があるって言われて。いつものように断ろうとしたら相手がAちゃんだって聞いて。早く進めてくれって答えて飛んできたんだ。」

いつもの凛々しさはどこへやら。
無邪気な少年の笑顔で私にいっぱい話をしてくれる。

胸が暖かくなって。私は、この人が大好きなんだと改めて実感した。

「それで、わざわざいらして下さったんですか？」

「そうだよ。正式に、なったからね。」

もう許嫁も同然だから、と。前置きして。

「宮舘様じゃなくて、涼太さんって呼んでくれないかな。」

「…、」

恥ずかしくてなかなか言えなくて困っている私を、彼はくすくす笑いながら楽しそうに見ていたっけ。

そして。
涼太さんが京へと旅立つ日がやって来た。

私は宮舘のお家の前で見送ることを許され、笑顔で送り出そうと必死に寂しさを堪えていた。

「しばらく顔を見れないから、もっとよく見せてくれないか。」

「…はい。あの、これ、良かったらお持ちになってください。」

お守りを手渡すと、涼太さんは微笑んだあと凛々しい表情に変わって。

「文も送る。毎日江戸の方を見てAのこと考えるよ。」

「はい。私もそうします。」

「離れていても、いつも思ってるから。いい子にしてて。」

「はい。涼太さん、お体、気をつけてください。…行ってらっしゃいませ。」

たくましい手が私の頬に触れ。名残惜しそうにしたあと、彼は振り返ることなく京へと足を進めていった。

後ろ姿が見えなくなるまで、私はそこに立ち尽くしていた。

寒さが厳しくなる、冬の日だった。