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あの子がこの世を去ってから。
一月が過ぎた。


悲しみに暮れていてもお客は来るし。朝になれば夜にもなる。
何も変わりはしないことが、より私の心を辛くした。



「来週ですね、祝言。」



涼太さんは、旗本のお姫様と祝言を挙げる。
私が夢に見ていた、涼太さんのお嫁さんに、私の知らない人がなる。



「…あの簪は、もう、捨てたか?」

「…、そんな。私が捨てるとお思いですか?」



今私の髪には派手な簪がついている。それは。私が夕霧であるという切り替えのため。



「大切に取ってあります。だってあれは、私がAだった証ですから。」

「A…、お前は今でもAだよ。俺はそう思ってるし、まだ夫婦になることを諦めてはいない。」



祝言の日に、俺は家を出ると決めていると涼太さんは言った。



「家を出るなんて…涼太さんは跡取りではありませんか。どこに行くおつもりなんですか。」

「A、一緒に江戸を出てどこか知らないところで二人で暮らそう。」

「…。」



素直に喜べなかった。
だって。涼太さんは旗本であることに誇りを持っているし、この国を良くするために日々奔走している。

なのに。

私のせいで、その立派な志を手放すことになるなんて。



「明日は来れないが、明後日は必ず来るよ。」

「はい。」



大好きな、優しい瞳。
この瞳に何度心を揺さぶられただろう。



「私のこと、時々思い出してくださいね。」

「何言ってるんだよ、いつでもAのこと考えてるよ。」

「ふふ、ありがとうございます。」



これ以上、涼太さんの重荷になってはいけない。祝言を挙げると聞いた日から、ずっとそう考えていた。
愛しているからこそ、一緒になってはならない。


昨日岩本様に、文を書いた。彼を見送ったら出すつもりだ。

私がいなくなったあと、涼太さんには私のことを忘れてほしい。それを伝えてほしくて。



たぶん。

今宵があなたに会う最後です。



涼太さん、愛しています。
二度と、会えなくなっても。

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作者名:みち | 作成日時:2020年7月12日 9時

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