14 ページ14
…
「どうしたんでありんすか？」
「頭が痛くて…。」
「顔色がちいと悪いのでは、」
「薬を飲んでまいりんす。」
この子は、よく頭が痛くなる子で。それでも客を取らないといけないから寝てるわけにいかず。
薬を飲んで乗り切っている。
吉原に来て、季節がひとつ過ぎた。
色んな子がいる。
ここにきて思った。
諦めて、泣いて。それでも明日を夢見るんだ。ここは、女の戦場だ。
まだ店が開く時間まで間がある。
私は部屋で、涼太さんにもらった簪を手に取って眺めていた。
雪の簪。
私の大切な宝物。
これだけは。何があっても守ってきた。
「ねえさん、それきれい。」
まだ年端も行かぬこの子は、生まれてすぐ親を亡くしてここへ引き取られた子。修行がてら私の身の回りのことを手伝ってくれる。
確か、今年で6つ。
「夢で、ありんすよ。」
「夢？」
「大好きな人と、夫婦になりたいという夢を見れるんでありんす。ほら。」
角度を変えるときらきらと輝く。それは、晴れ間にちらつく雪のようで。
あの、戻れない冬の日に帰れる気がした。
“こんなに誰かに会いたいと思ったのは初めてなんだ”
“私と一緒になってくれませんか”
幸せだった。
この記憶だけで、生きていけると思うほどに。
でも。
「会いたい、」
「ねえさん？」
「会いに来て、おくんなんし…、」
泣いてはだめ。
お化粧が落ちてしまう。
凛々しい瞳。
よく通る、男らしい声。
あの人は、もう江戸に戻ってきたのかな。
私の知らない誰かと、祝言を挙げているのかな。
それならもういっそ。
雪になって消えてしまいたい。
そう、願ったのに。
嵐のようにあの人は私の前に現れて。
「ここを出よう。」
叶わない夢を口にしてくださった。
だけど。
“宮舘の家に、旗本以外の血を入れることはなりません。それが、常識なのです。あなたは何も世の中のことを分かっていませんね。”
“申し訳ありません…”
“涼太の前から消えてもらいます。どんな手を使っても。”
涼太さんが京にいる頃、庄屋に現れた宮舘の奥様が軽蔑した目で私を見て言った。
あの言葉が消えなくて。
遊女になった私に会いに来てくれて嬉しいのに。
身が引き裂かれる思いだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 102人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SnowMan」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みち
| 作成日時：2020年7月12日 9時
