記憶(R.Miyadate) (ページ10)

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10(R.side) ページ10

(R.side)

中に入ると店の人間が声をかけてきた。

「おお、お客様、いらっしゃいませ。」

「あの子に会わせてくれないか、右の部屋の隅に座っている色白で綺麗な子だ。」

「あぁ、それは夕霧ですね。」

「夕霧…。」

「それでは準備をさせますので、部屋の方でお待ち下さい。」

通された部屋は、床の用意がなくおそらく酒を飲んで話をする部屋なのだと思う。

まだ、脈が早い。
あの夕霧という遊女は、果たして俺が追い求めている人なのだろうか。

「失礼いたします。」

扉が開き、女がこちらにやってくる気配がしたので俺はわざと顔を背けて見えないようにした。

「夕霧と申しんす。初めまして。」

あぁ、この声を、忘れたことなんかない。
涙が溢れてきそうだ。

「お兄さん、お顔を、見せておくんなんし。」

彼女が側にきて、逃げられない位置まで来たことを確信した俺は、彼女にゆっくりと顔を見せた。

「…っ、」

綺麗な瞳。
小さめでぽってりとした唇。頬のほくろ。

そして。
俺を見て驚きで震えているのが、何よりの証拠だ。

「A。…Aだね。」

「いえ、あちきは夕霧で、お人違いではありんせんか、」

そう言いながら、部屋を逃げ出そうとする彼女を後ろから強く抱き締めた。

「やっと、見つけた。」

「やめておくんなんし、お人違いで…。」

「会いたかった。」

抱き締める腕を強くすると、彼女は体を震わせて。

「…やめて、くださいっ。誰かっ、だれ、か…」

力なく人を呼ぼうとするが、その抵抗する腕は。

あの日。
雪の簪をつけて歩くAがあまりにも嬉しそうに笑うから。たまらなくなって抱き締めた。あの時の反応の仕方と同じだった。

愛しい人。
こんなに。
こんなに近くにいたなんて。