3代目メカクシ団は夏を変えろ ll (ページ4)

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目が陰る話ページ4

うん、美味しい。
健康的な夏野菜入りのカレーの味に、俺は舌鼓を打った。きーちゃんも隣でもぐもぐとカレーを食べている。
けれど、その目は何を捉えているのか曖昧だった。

「きーちゃん、眠い？」

単純な"眠い"とはどこか違うような気もしたが、ひとまずそう尋ねてみる。
なんというか、彼女はたまに不思議な表情をすることがある。変顔ではない。綺麗な顔なのに、何を思っているのかいまいち思考が読めない。そんな表情だ。

「あ……眠くない、大丈夫だよ」

きーちゃんはまるで「忘れてた」とでも言うかのような声を発して、すぐにいつもどおりの表情になった。
やっぱり眠くはないらしいが、何やら考えごとをしているようだ。

テーブルを囲んだそれそれの場所では、セオさんが言っていた「思い出せることは思い出して、考えられることは考えておいて」についての話題がしばしば挙がっていた。
きーちゃんと個別に話しているせいか、俺に質問は飛んで来ない。それに少しだけ安堵していた。

「ならいいんだけど。そうだ、また明日図書館に行こうか？」

そう言うと、きーちゃんは表情をぱっと明るくした。

「いいの？」
「うん、次は何の本を借りよっか」

きーちゃんも、セオさんが言ったことについての話題は挙げなかった。彼女自身思い出したくないことがあるのか、俺を気遣ってくれているのか。
まぁ、どっちでもいい。あんな残酷なこと、思い出したらどうなってしまうかわからない。

性悪な叔父と叔母。
周囲からの軽蔑の目。
もう二度と、戻らない姉。

ワードを連想しただけで嫌になる。セオさんには申し訳無いけれど、今回は協力出来ないかも知れない。
『したくない』んじゃない。『出来ない』んだ。

「イズミちゃんは？眠い？」

俺がぼーっとしていたせいか、きーちゃんからお声が掛かる。いけないいけない。

「ううん、眠くないよ。大丈夫」
「そっか。……あのね」

きーちゃんは内緒話をするみたいな声量になって、私だけに聞こえるように言った。

「セオさんの言ってたことね、無理にやらなくていいと思うよ。イズミちゃんが傷付いちゃったら大変だから」

きーちゃんからこういう言葉を貰うとは、正直思っていなかった。彼女はもっとふわふわしていると思っていたけれど、案外ちゃんと物事を見ているのか。
……暖かいな。

「うん。ありがとう」

私はそう言って、冷めない内にとカレーを食べ進めた。再びもぐもぐとカレーを食べるきーちゃんを微笑ましく眺めながら。