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目が蘇る話 ページ29

「ヒナノ?」

アオ姉とイオとヒナノと俺、四人で皿洗いをして一息吐いた瞬間。ヒナノはかくんと頭を垂れ、寝息をつき始めた。
この様子だと、皿洗いの途中で寝なかっただけ偉い……な。

「ヒナノちゃんがどうかし……って寝てる?!」

イオはびくりと肩を跳ね、ヒナノの寝落ちのスピードに驚愕していた。アオ姉もヒナノを見詰めてぽかんとしている。
勿論、俺も例外ではない。こんなにも素早い寝落ちは初めて見た。

「起こす?」

イオが困惑したように言う。多分、今日は団員全員疲れている。
ヒナノも気丈に話していたけれど、相当気力を使ったのだろう。

「そっとしておいていいんじゃないかな」
「……うん」

アオ姉の一言で、三人の意見は合致した。
ヒナノは嬉しそうでも悲しそうでもなく、ただ息絶えたかのように眠っている。……寝違えないといいけど。

「お父、……ん……」

二人とまた何かを喋ろうとしたその時、ヒナノが何かを呟いた。どうやら寝言らしい。
二人は気付いていないようで、アオ姉とイオは「親に泊まりの連絡しなきゃ」と話している。
そうだ、イオにもアオ姉にも家がある。

俺にはそれがない。完全に此処に住んでいるのは、セオとイズミとヒナノと俺とキリカゼくらいだ。
その他の団員は、保護者に「友達とお泊まり会をする」などと言ってアジトに泊まっているらしい。

「ルイ君はそっか、此処が家だもんね! 」

「此処が家」。そういえばそうかもしれない。安心していられる空間。気張らなくていい場所。
ただ、人それぞれ適度な距離はある。それもまた心地好いところだ。

『ルイ君、今日もお勉強頑張ろうね』
『ほら、これも栄養たっぷりだよ』

突然、視界にモザイクがかかる。それはきっと、優しかった施設の先生の顔。
いつも勉強を手伝ってくれて、栄養のある食事をくれて。お陰様で、カゲロウデイズに干渉する直前の七歳の春には、主要五教科は中三の範囲まで網羅できていた。

でも、それは"本物"じゃない。先生の心からの優しさは、あの孤児院にはなかった。

『そろそろ……だな。二人とも順調に育ってる』

あの日。二段ベッドの上段から見た、ドアから覗く先生の悪人面。低く淀んだ声。

『あの子達はもうやれるわよ』
『今回は何の実験台(・・・)にするの?』

あれ、こんなに鮮明に記憶が蘇ったことってあったっけ。
なかったとしたら、それは__

「ルイ君?ルイくーん……って、大丈夫?!」

きっと、思い出しちゃいけないことだったからだ。

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作者名:3代目メカクシ団/企画:キリカゲ | 作者ホームページ:無いのだ!  
作成日時:2019年10月8日 16時

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