水無月 ページ33
.
6月。梅雨入りした。
すみれ色の傘を差して歩く。
この傘が宙でひるがえった
あの日の事を思い出す。
実はこの傘は、
随分前に先生にもらったものだった。
遡る事、4年前。
あのキャンパスで
入試を受けた時のことだった。
試験が終わって緊張のせいか
お腹の調子が悪くてトイレにこもっていた。
用を足して、トイレから出ると
たくさんいた受験者は周りに見当たらなかった。
キャンパス内は広いから当時の私には迷路。
迷ってしまったのだ。
そんな時、キョロキョロしている私に
声をかけたのは�霤沈萓犬世辰拭�
10mは離れてたと思う。
先生が廊下の端から言った。
「外こっちですよ」
先生と初めて会話した。
『す ... すみません 、ありがとうございます』
すぐそこやから、と
わたしを連れて玄関まで歩いてくれた。
出ようとした時。
大粒の雨が降ってきた。
『.... 雨』
あいにく傘は持ち合わせてなかった。
こんな真冬に雨ざらしになって帰ったら
100%風邪ひくなあ .... なんて思ってたら、
「これ、持っていき」
すみれ色の傘。
『あ ... ありがとうございます。
でも大丈夫です ...
いつお返しできるかわからないですし ... 』
「返さんでええですから。
受験生は風邪は命取りやから、
気にせんと持って行ってください」
先生はにこりともしなかったと思う。
怖かった。
でも言い方はやさしかったから、
素直に傘を借りて帰った。
そして、
無事合格通知が届いて。
傘返さなきゃ。
そう思って研究室の扉を開けた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 111人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みっこ | 作成日時：2021年12月4日 0時
