贈り物には雨傘を。〔紫〕 (ページ4)

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「……Aさん……やったよな？」

『ごっ……ご無沙汰です

「は？さっき会うたばかりやろ」

テンパっておかしな事を言う私に
ぴしゃりと突っ込んだ濵田先生の
あのモアイ顔の目尻をほんの少し下げた。

先生笑った。笑ったよ。え？

『あはは、そうですよね…何言ってんだろ私…
すいません…先生のご自宅こっちなんですか？』

沈黙は気まず過ぎるからとにかく早口に
なるしどうでもいい事を口走る。

「ん……あー。一旦研究室戻ろかなって。忘れもんしたから」

『あっそうなんですねー！』

「Aさんは？」

『わっ…私はちょっと酔ってしまったんで
ちょっと遠回りして帰ろうかな、なんて』

「酒弱いんやな」

『強くないのは確かですね ...』

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大学にしてはやけに洒落た照明が煌々と空間を照らす。

先生はそのマグカップを私に差し出した。

コーヒーとその薬指に嵌めた指輪が光る。

『ありがとうございます』

その熱いコーヒーはバニラの甘い香りを
放っていた。啜るとその香りとは裏腹にしっかりとした苦みが広がる。

私はコーヒーが苦手。

「どうしてAさんはうちのゼミへ来たん？」

『なんでだっけ……あっ……英文学が好きで……』

嘘。英文学は好きだけど。

就活の為に入ったようなもの。

「ふーん」

『先生はどうして先生を？』

私が質問すると、先生はにやりとして、内緒。
と言って向かい合わせの席から立ち、
薄手のコートを着た。

　

「付き合わしてしまってすまんかった、帰ろか」

『いえ、ちょうどいい感じに酔いが覚めました！』

「だいぶ遅なったし車乗ってくか？」

『えっ…お酒は？』

「今日は飲んどらん。酒弱いからな」

やっぱり飲んでなかったんだ。

『でももうちょっと歩きたい気分なので！大丈夫です！ありがとうごさいます』

「おう、またな」

帰り道、謎に包まれた先生と少しだけ一緒に
過ごしたちょっとしたあの時間のことを
ずっと思い出していた。

頭の中がそのことだけでいっぱい。

おかげでひと駅乗り過ごした。

「内緒」

先生の声が脳内で繰り返し再生されるのは何故だろう。

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