人魚姫3 (ページ26)

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『好きが、分からない…』

それが、私の本心。

『ベクといると、胸が痛いし、ドキドキするし、息ができないくらい苦しくなるし…でも、すごく楽しい。笑顔が勝手に溢れてきて、幸せだなぁって思う。それに…、、！？』

え、…

言葉の途中で、私の視界からベクがさっと消えた。

瞬間、痛いくらいの力が私の体をぎゅっと締め付けた。

『ベク…？』

栗色の髪が私の肩に覆い被さり、首筋にかかる温かい風のせいで、私はベクに抱きしめられているのだと気づいた。

苦しいくらい、強い力。

男の人なんだと実感する。

『ちょ、苦しいよ、ベク』

「ごめん、でもまだこのままでいさせて」

けどね、不思議と嫌じゃなかった。

分かってた。

私は、ずっと前から知っていた。

自分の気持ちに。

ベクのことが好きだって。

ちゃんと気づいてた。

「ねぇ、A」

私を抱きしめたままの男が、耳元で甘く囁く。

くすぐったくて、反射的に体をよじらせる。

「だーめ、」

かかる息に耐えられなくなった私は、ベクの体から自分の体を引き離すと、勢いよく自分の耳を両手で塞いだ。

どうだ、

そんなドヤ顔をかまそうとして見つめた彼の顔は今まで見たこともないほど色っぽくて。

見とれたその隙に、ベクの両手が私の両手をふわりと包み込む。

少しずつ絡まる指に、全身の力が抜けてゆく。

ベクの顔が、心なしか近づいてきているような気がした。

完全に絡まった指は、まだ私の両耳を塞いでいて。

そうして、ベクの鼻が私の頬をかすめ

甘く痺れた感触に、キスしているのだと気づいた。

どのくらいの時間、私たちは唇を重ねていたのだろう。

息継ぎするように離れた2人のそれは、また求めるようにどらからともなく引き寄せ合った。

人通りの少ない街路樹の下、私はその時の記憶を今でも昨日のことのように思い出してしまう。

瞼を閉じれば、すぐそこにいる。

手を伸ばせば、あの頃のベクに触れられる。

それくらい、忘れられないでいる。

３つの重なり合った歯車がギシギシと音を立てて動き始めたのは、きっとこの瞬間からだと、私は今になって知るのだ。

もう、遅いのに…