人魚姫3 (ページ24)

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『ベク、何でここにいるの？』

帰り道。

繋がれた手から伝わる、痺れるような甘さに私の胸はその鼓動の高鳴りを隠せずにいた。

「んー、Aが呼んでた気がして。来てみたらやっぱりAがいた(笑)」

『なにそれ(笑)』

「え、呼んでたでしょ俺のこと？」

『呼んでないよ、自意識過剰～』

「え～ウソだ～！嘘つき女～！ドロボー！」

『めっちゃ悪口言うじゃん！(笑)』

変なの。

ひとりであの桜の下にいた時は、すごく寂しくて。

心が冷たくて。

泣きそうなくらい痛かったのに。

今は、全然違う。

楽しくて、勝手に笑顔が溢れてきて。

胸が、もうずっとドキドキしてる。

『っ、ありがと…ベク』

ふと、唇から言葉が溢れ落ちた。

ベクの足が止まる。

必然的に私の足もピタリと止まる。

甘い香りが風に揺られて、

ベクが真剣な顔でこっちを見つめた。

………。

静寂が、2人の間に流れる。

黙ったままのベクは、私から視線を外そうとはせず、でも口も開こうとしない。

その真っ直ぐな眼差しに、恥ずかしくなった私が先に逸らす。

俯いた先に映る、まだ繋がれたままの2人の体温。

「…、ねぇ」

それは紛れもなく、ベクの声。

でも、いつものおちゃらけた幼い声じゃなくて。

大人の男の、しっかりとした声。

「こっち、見て…？」