人魚姫3 (ページ20)

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「え！落としたんですか！？ちょ、それは緊急事態ですよ、GPSで探してみますんで待っててください」

待っててください。

その言葉が妙に頭の中で響いた。

「いや、でも俺かなり急いでて。この後人と約束してるんです。」

俺がそう話しかけた時には、マネージャーの背中は控え室から半分消えていた。

…もう、待つしか選択肢がなくなってしまった。

あぁ、こんなことになるなら電話番号聞いておけばよかった。

後悔の渦はだんだんと大きく広がり、何もできないまま立ち尽くした俺の体はそれにすっぽり飲み込まれてしまった。

そして後に残ったのは、17時を回った腕時計だけだった。

「ありました！！見つかりました！スマホ！」

高揚し声を荒げるマネージャーの言葉が聞こえた。

「今朝乗ったタクシーの中に置き忘れてたみたいで。いやー、運転手の方が大事に保管してくれててよかったぁ。助かりましたよ、」

さっと目の前に差し出された、俺のスマホ。

「時間かかってしまってすみません、随分遠くのタクシー会社だったので…」

少し汗ばんだ手の平に、額に光る雫。

「すみません、迷惑かけてしまって。わざわざ遠いところ取りに行ってくださりありがとうございます」

よそよそしいくらい畏まった俺の言葉は、本当に申し訳ない気持ちで一杯だった。

今朝から浮かれていたんだ、俺は。

Aさんに会える事が嬉しくて。そればかりが頭の中を埋め尽くしてて。

心ここに在らずの状態でいたから、今日は何もかも上手くいかなかった。

全て俺のせいだ。

自分をちゃんとコントロールできていなかった。

それが身に染みてよく分かった。

痛感した。

「そんな、気にしないで下さい。それより約束している方は大丈夫ですか？もうかれこれ3時間くらい経っちゃいましたけど…車、出しましょうか？」

そうだ、俺はまだ彼女を待たせたままなんだ。

もう遅いだろうか。

今更行っても、彼女はきっといないだろう。

帰ってしまったかもしれない。

マネージャーからスマホを受け取り、電源入れる。

…ほんと、今日はついてないな。

電源ボタンは役に立たず、画面は真っ暗な闇を映していた。

電池切れだ。

きっと、神様が言ってるのかも。

彼女は諦めなさいって。

そう、たぶん、そうなんだ。

神様はいつだって、天使にしか微笑まないのだから。