人魚姫2 (ページ8)

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『…本当にここだよね？』

コウさんの言ってた住所通りに車を走らせたはず、多分。

なのに、私が着いたのはテレビ局だった。

理解不能のまま、取り敢えずコウさんに電話をかける。

「あ、着いた？」

『ねぇ、テレビ局に着いたんだけど…私道に迷ったかな？』

「いや、あってる。受付に言ってあるから多分入れると思うんだけど」

コウさんの言葉の通り、受付のお姉さんが笑顔で「こちらです」と案内してくれ、なんで全面ガラスなの？と不安になるエレベーターを乗り、よく分からない部屋に通された。

「おー、やっときたか」

扉を開けると、すぐ目の前のイスに座ったコウさんが手招きしてる。

『なに、ここ…』

そこは、どっからどう見てもレコーディングスタジオ。

「こんにちは～」

コウさんの隣に座る髭の男性が、軽いノリで挨拶するので私も会釈する。

『ちょっと、なにこれ』

コウさんに持ってきた紙袋を押し付けた私は、その勢いで質問する。

「仕事」

コウさんは真顔でそう答え、紙袋を受けとると「サンキュー」って口笛を吹く。

「あ、たまにね、週に何回かレコーディング手伝ってもらってるの」

髭の人が言う。

その人はキムさんと言って、コウさんとは5.6年の付き合いらしい。

「ありがとねぇ、このCDがないと次に進めなかったんだよ～」

私が持ってきた紙袋をヒラヒラさせ、ふにゃりと笑うキムさんは、

「コウには作曲とかも手伝ってもらってて～」

と続けるとコウさんの肩をペシペシ叩き、「それ以上言うなよ、痛いな」と言うコウさんと親しげにじゃれ合っていた。

『じゃあ、私もう行くね』

「おう、ありがと」

「ばいば～い」

キムさん、いい人そうだな。

コウさんにあんなに仲の良い友達がいたとは。

下っていくエレベーターの外を覗きながら、コウさんはこういう仕事もしていたんだと思った。

私はてっきり、レンタルビデオ屋の店長になるために韓国に来たのだと思ってたけど、そうじゃなかったみたい。

コウさんにも、夢があってそれを追いかけにココまできたのかも。

私も、ココに来た。

夢ってほど大きなものはまだ無いけど、何かを見つけに来た。

まだ、全然見つかる気配もしないけど。