人魚姫2 (ページ48)

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気づいたら、

『ごめんなさい、電話長くなっちゃって』

と、俺に上目遣いで謝るAさんがいた。

胸の中に広がる違和感が、どんどん大きく膨れ上がる。

もうそろそろ、破裂しそうだ。

彼女のアパートの前、『おやすみなさい』と微笑み振り返ったその人を、俺は帰したくないと思った。

だから、とっさに腕を掴んだ。

細い、女の腕。

『っえ、』

短く漏れた声。

俺の方に、彼女が顔を向ける。

不思議そうに見つめる目が、何か言いたげで。

俺だけを映し出すその瞳を見た瞬間、理性が、何処かに飛んで行った。

無意識だった。

俺は彼女の冷たい頬に触れ、その白く柔らかな上で、熱を持った自分の指を這わせた。

彼女の真っ黒な瞳が、揺れた気がした。

やがて俺の親指が彼女の唇の端を優しく滑り、紅く染まったそれを型どるようになぞる。

彼女の生暖かい息が、俺の頬に当たる。

それくらいの距離まで顔を近づけると、彼女は息を飲んで目を固く瞑った。

俺の息が、彼女の唇を通り過ぎる。

俺の鼻が彼女のそれと触れ合って、それから俺は、ハッと我に返った。

「っ、すいません、」

彼女の肩を掴み、そっと自分から距離を離す。

何やってんだ、俺。

彼女の顔が、見れなかった。

頭を下げ、俺はその場所から急ぐように立ち去った。

かっこ悪。

その夜は、スマホの画面をただ眺めた。

謝罪のメールをするべきか、電話で謝るべきか。

結局、翌日の朝になっても、俺は彼女に何も連絡ができないままでいた。

次会ったら謝ろう。

そう言い聞かせて潜り込んだベッドの中、もう2度と彼女は会ってくれないんじゃないかという恐怖が俺を襲い、その日は一睡もしないまま午後から仕事に出かけた。