人魚姫2 (ページ32)

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こんな時間に、しかもこんな場所で彼女に会うなんてたぶん、誰も予想してなかった。

スーパーを出て、近くの公園で飲もうと誘ったのはなんでだろ。

随分長い間その姿を見ることができなくて、その声すら聞けなかったから、すぐには帰したくなかったのかもしれない。

スーパーから数分先の、裏路地に入ったところにある公園。

外ではここが唯一、心休めることができる場所。

誰にも教えた事はないし、教えるつもりもなかった。

けど、彼女には不思議と喋ってしまった。

夜風のその冷たさが、少し酔いの回る火照った頬にあたる。

澄んだ空気の中に、淀んだ静寂が流れる気配がした。

ふと、彼女が静寂の中で口を開く。

俺は久しぶりに聞く華奢な柔らかい声にただ耳を傾けていた。

やがて彼女は、その声を震わせながら力のない弱々しい響きで、自分の過去を話し始めた。

泣いているのかもしれないと思って、何度も彼女の顔を覗こうとしたけど、一生懸命に話すその姿に躊躇って、頷くことしかできない。

そうして彼女が自分の涙に気づいた時、俺も自分が泣いていることに気づいた。

『…っなんで、ギョンスさんも泣いてるんですか、…』

つっかえながら涙を飲み込むその声に、自分でもその理由が分からなかった。

なんて答えれば良いのかも分からなくて、何が正解なのか、俺の中で静かに湧き上がる感情に、ただ涙がとめどなく溢れた。

本当は、目の前で泣いているこのひとを抱きしめたい。

「大丈夫だよ」と声をかけ安心させてあげたい。

でも、俺にはそんな勇気はない。

差し出すハンカチすら、俺のポケットにはないのだ。

少し落ち着いたのか、彼女の泣き声が小さくなって、浅い深呼吸が微かに聴こえた。

俺は服の袖でそっと涙を拭ってから

「遅くなったんで、家まで送ります」

そう言って、ブランコから立ち上がった。