人魚姫2 (ページ31)

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ビール缶も、あともうそろそろで空になろうとしていた頃、酔いが回ったのかそれとも思いのほか酔えなかったのか、私はぽつり言葉をこぼした。

『…私、アンデルセンの童話で人魚姫が1番好きなんです』

突然私が口を開いたせいで、ギョンスさんの瞳が戸惑ったように揺れた。

『小さい頃に、よく父と母が読み聞かせてくれたんです。初めてそのお話を聴いた時、“ あぁ、私もこんな風に、自分に正直でまっすぐな人になりたいなぁ ” って。そう思ったんです』

なんの話を彼にしようとしてるのか、私は口走ってしまった言葉を止められず、溢れ出すままに喋っていた。

『それで、父は休日になると私と母を水族館に連れてってくれて…知ってます？ジュゴンって。すごくおっきい海の動物』

すぐ右を向けばいるはずの彼の顔が見れない私は、ただ横目で彼の姿を一瞬だけ見る。

「名前だけなら、聞いたことあります」

すこし低めの、でも体温すら感じられるほど優しい温もりが、彼の声にはあると思った。

『ジュゴンって、人魚のモデルなんです。全然似ても似つかないんですよ(笑)でも、父はそれがすごく好きで』

そのせいか、不意に込み上げるものがあって。

ギョンスさんといると、本当に困る。

彼は、すごく温かいのだ。

ふとした瞬間に、彼の後ろで2人の影を見つけてしまうほど心地よい、私の求める体温を持ってる人。

『っ、それから…、今日、久しぶりに水族館に行ったんです。そしたら、ジュゴンにそっくりのマナティがいて。こんなこと言ったら父は “ 似てないよ ” って笑うのかなって。なんか、昔のことが一気に溢れてきちゃったんです、たぶん』

やめてよ、

『本当は、もう思い出さないって決めてたんです。父と母といたあの楽しかった時間を思い出しても、2人は帰ってなんかこないし。でも…でも私、期待してんるです、まだ』

ねぇ、やめてってば、

『また、会えるんじゃないかって。 “ ただいま ” って、いきなり家の戸を開けて戻ってくるんじゃないかって。それが怖くて、日本を出てここに来たのに…私また、あの2人を思い出してる…わたし』

…なんで、

『…っわたし、なんでこんな、なんで泣いてるんだろっ、』

ねぇなんで、ギョンスさんも泣いてるの…？