人魚姫2 (ページ23)

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イルカショーが始まるまでの数分、俺の頭の中はずっと、

『…ベク、』

さっきの彼女の声が永遠リピートされて離れていかない。

なにあれ。

いや、あれは反則でしょ。

ずりぃよ、まじ。めちゃくちゃかわいかったじゃん。

あんな甘い声で、しかも顔赤らめながら呟やくとか…

はぁー、

あんなの、誘ってるようなもんだよ、ほんと。

もうすっかり下心丸出しの脳内は、俺の左隣の彼女のことで埋め尽くされてしまっている。

「…どうしよ」

ふいに心の声が漏れて、慌てて彼女の方を見た。

『ん？何がですか？』

純粋無垢な瞳が、俺を映す。

あぁ、どうやったらこの人、俺のものになるかな。

どうしようもなく伸ばした左手が、彼女の頬に触れた。

ぴくり、と少しだけ震えたその身体が脆くて、弱くて、愛おしい。

『っ、どうしたの…？』

いつの間にタメ口になったのか、

いや、もう今更そんなことどうでもいいけど、どうしてこんなに彼女を求めてしまうのか。

それに俺、いつからこんなに好きになってたんだろ…

「あ゛ーー、」

『えっ！？なに、え、』

「あぁ、もう、」

少し息を吐いて、彼女の熱くなる頬からゆっくり手を解いてゆく。

「他の人がいなかったら、」

もう少しでイルカショーの時間なのか、俺たちが座るベンチの周りに人が集まってきた。

『へ？』

「俺、いま絶対、」

ざわざわと落ち着かない空気の中、少しずつ熱を帯びるこの体温は周りの熱気なのか、それとも…

「キスしてた…、」

そう言った俺の言葉に覆いかぶさるようにして聞こえたイルカショーの始まりの合図は、耳障りなほどの甲高い笛の音で。

『え？今なんか言いましたか？』

隣のかわいい人は、何にも知らないと言いたそうに、その小さな顔をキョトンとさせた。

「イルカ、かわいいね」

でもそれは、さっきのことをまるでなかった事のようにした俺の笑みで、全部まるごと消してしまった。