人魚姫2 (ページ18)

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「俺？…んーん、いないかな、まだ」

いない、なんて口にしたギョンスは、「早く寝ないと明日遅刻するよ？」と俺に言うとふっと笑ってソファーから立ち上がった。

「なに、ギョンスもう寝るの？」

「寝るよ、俺も明日早いし(笑)」

眉を少し下げたギョンスが、切なそうに笑みを浮かべる。

「おやすみ、ベッキョナ」

初めて見た、お前の顔。

いつも近くにいるのに、ずっといたのに、気づけなかった、気づかなかった、俺の知らないお前の顔。

「…なぁギョンス。お前やっぱりなんかあった？」

俺に背を向け、今まさに自分の部屋に戻ろうとしている小さくて、でもしっかりした男の背中に声を投げかける。

「…ん？なぁんもないよ。ベッキョナもしつこいね(笑)」

…も？もってなんだよ、俺の他に誰がいるわけ？お前は、ギョンスはさ、誰を見てるの？

「おやすみ、」

もう一度俺に向けられたその言葉。

それがずっと、頭ん中で再生されて耳鳴りみたいにこびり付いてる。

俺は、遠くなるギョンスの足音に耳を傾けながらただじっとフローリングの溝を見つめていた。

見つめれば見つめるほど、その小さな黒い隙間から溢れ出す目には見えないどろっとした欲望が足元に広がり、それがいつしか俺の下半身を飲み込もうと絡みついた時にはもう、カーテンから覗く陽の光が俺に朝を伝えていた。

あぁ、今日は彼女とデートなんだった。

昨日あんなに楽しみで眠れなかった身体が驚くほど重い。

身体中に貼り付いたナニカを剥ぎ取るようにソファーからゆっくり起き上がった俺は、9時15分を過ぎた時計を眺め急いで自分の部屋に戻った。