人魚姫2 (ページ16)

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今日は絶対行こう、って昨日も言ってた気がする。

主演映画が決まり、素直に嬉しかった。

自分の演技が広く多くの人に認めて貰ったんだと思うと、目頭がふっと熱くなる。

彼女を見かけた翌日から映画で共演する俳優、女優さんとの顔合わせが始まって。

皆んな、凄く生き生きした顔をしていた。

監督は前に一度お会いした事があり、その気難しそうな印象からは想像もできないクリエイティブな発想をする人だ。

心臓が、何でこんなに熱いんだろう。

鼓動が、もうずっと速い。

緊張と不安と、それから胸が弾むほどの嬉しさ。

…それなのに

この嬉しさを、メンバーの皆んなと分かち合った時、俺の体の隅でナニカが疼いた。

彼女にも、伝えたいなぁって。

きっと、Aさんなら輝くような笑顔を向けて一緒になって喜んでくれる。

おめでとうって言ってくれる。

…なんて、無理か。

俺のことなんて彼女は知らない。

知ったらきっと、彼女は俺のそばから離れてしまう。

もうDVDを借りに行ったり、映画に行ったり、食事したり。

できないんだろうな、きっと、、、

桜を観に行くっていう約束すら、なかったことになるのかな。

そんなこと考えながら歩く夜道は、いつもよりずっと暗くて冷たい。

今日行かないと、もう二度と彼女に会えないかもしれないという不安が心を掻き乱し、収録が終わるや否や、俺は急いでスタジオを飛び出した。

夜も更け危ないので送ります、と言ったマネージャーの声が背中で響き、それが余計に俺の足を速める。

「っ、はぁ、っぁ、」

走るように向かった扉の前、この向こうに彼女がいると思うと余計息があがる。

荒い息をゆっくりと整え、一つ深呼吸する。

そうしてやっと撫で下ろした肩に、熱を帯びた右手で不思議なくらい重さの感じない扉を開けた…