人魚姫2 (ページ13)

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知ってる人。

ううん、違う。

彼女だ。

彼女が、俺のすぐ横を歩いて行った。

目すら合わなかったけど、あれは確かにAさんだった。

どうしてここにいるのか、それさえ考える暇もなく胸が高鳴った。

心臓が、壊れるくらいドキドキしてる。

手を伸ばせば届きそうなほど近く、さっきまでそこにいたAさんが少しずつ遠くなり、2人の距離は広がってゆく。

立ち止まったままの俺は、チャニョルの「どーした？」の声に現実に戻され、歩き出そうとした足が、誰かの靴とぶつかった。

「あ、ごめん…！」

とっさに口から出た言葉に視線をあげた俺の瞳が、遠い目をして後ろの方にあるナニカをずっと見つめるベッキョンを映す。

「ベッキョナ…？」

呼びかけた俺に、ベッキョンは長い時間その場に立ち尽くしていた。

「…なんでここに？」

不意に口からこぼれたその声が、真っ逆さまに俺の白いスニーカーに落ち、そこに小さな黒いシミをつくる。

まるで何かを教えるみたいに、胸がやけに騒ついた。

引き返すなら今しかないと言わんばかりの生暖かい風が、頬に当たる。

「大丈夫か？」

スホヒョンが心配そうな声で俺を呼んでいる。

俯いた視線に、さっきよりも深くなった黒いシミが、俺のスニーカーの白い部分を全部呑み込むみたいに広がっていったーーー