人魚姫1 (ページ8)

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ハッとして我に返った。

綺麗な顔立ちをした男の人とぶつかり、助けてもらい、私は何を浮かれているのだろう。

『すっ、すみません…！』

その人の温かいぬくもりから抜け出した私の足が、強く地面を踏みしめる。

『助けていただき、ありがとうございます』

ぎゅっと固く目を瞑り、相手に誠意が伝わるように深く頭を下げた。

そうしてゆっくり顔を上げた私の目に、時が止まったみたいに固まっているその人が映り込んだ。

…あ、

そうだ、ここは日本じゃないんだ。

韓国の人に日本語で会話して通じるわけがない。

『ごめんなさい、えっと韓国語で…』

韓国語で “ 助けて ” ってなんて言うんだっけ？

えーーっと、

「わかります、日本語」

少し上の方で、声がした。

「すこし、だけ」

声の方を見つめ、その人が優しく微笑んだ。

『え…びっくり』

呟いて、私も笑った。

その人があんまり流暢に日本語を話すから、なんだか可笑しくって。

「ヘンですか？俺の日本語」

そう言って首を傾げるその姿も、なんだか不思議。

『ううん、すごく上手です』

まさか、ここまで来て日本語を耳にするなんて考えてもなかった。

もう、絶対あそこには戻らないって逃げて来たのに。

自分から、あの世界を出て行ったのに。