人魚姫1 (ページ48)

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『あ、』

そうして何を思い出したのか、彼女が自分のショルダーバッグの中を探り始め、

『…これしかなかったです』

と、2個の棒付きキャンディーを俺に差し出した。

「え？」

『せめてお礼になるものないかなって…こんな安いものでごめんなさい』

「ふはは(笑)」

なんでキャンディがバッグから出てくるんだよ。

てか、それがお礼って。

面白くって笑いが止まらない俺に、彼女は恥ずかしそうに俯く。

「じゃあー、１つだけ貰います」

『え、』

「もう１つはAさんにあげます」

『でも、』

「Aさん、食いしん坊だから(笑)」

『うぇ！？そんな風に思ってたんですか！』

「ふっ、ふはは(笑)」

こうやって、ずっと彼女の隣で笑い合えたらどんなにいいか。

『女の子に向かってひどいです！』

コロコロと表情を変えるこの人を、俺が守ってやりたい。

この人のことをもっと知りたいし、

その華奢な体温に触れたいーー

「そういえば、日本ではこのキャンディが流行ってるんですか？」

『あー！話逸らしましたね』

つい最近、ベッキョンが大量のキャンディの束を持ち帰ってきて、理由を聞けば、道で助けた日本人女性に貰ったとか言ってたっけ。

「この間、ルームメイトが日本の人からこれに似たキャンディを大量に持って帰って来たんです」

『へぇ～随分この飴が好きなんですね、その人(笑)』

彼女はケラケラ笑うと、急に寂しそうな顔をした。

『ここからは1人で帰ります』

「大丈夫ですか？酔ってるみたいだし、タクシー呼び、」

言いかけた俺に、

『ううん、平気です』

首を横に振った彼女が笑ってみせる。

「じゃあ…おやすみなさい」

『おやすみなさい…』

不意に見せる彼女の悲しそうな、今にも泣き出しそうな切ない表情。

この前もそうだ。

『今日は本当にありがとうございました』

お礼を言う彼女の瞳は、まだ何か言いたげ。

どうしてだろう。

俺に、何を伝えたいの？

後ろ髪を引かれる想いで彼女に背を向けた俺の足は、鉛のようにひどく重かった。