人魚姫1 (ページ46)

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『なんで…』

「ん？」

その人の細い腕が、そこから想像もできないほど力強く私を包んでる。

ずっと、あの日からずっと

逢いたかった…

『なんで、いるんですか…』

でも、素直になれない私の口からはそんな言葉しか出てこない。

「なんでって…んー。仕事の打ち上げで来たんだけど(笑)」

あぁ、ずるいなぁ本当。

そんな風に真っ直ぐな目で私を見ないでよ

「ねぇ、俺のことちゃんと覚えてる？」

『え？』

「この前、俺の名前聞いたくせにすぐ逃げたじゃん」

『べ、別に逃げたわけじゃ…』

逃げたわけじゃない。

ただ、心臓が壊れちゃうほど苦しくて…

その場にいるのが、耐えられなくなっただけ。

「じゃあ俺の名前は？」

視線を上げた私の瞳に、その人の意地悪な顔が映る。

私、ちゃんと覚えてるよ？

だって、ずっと逢いたかったから。

自分でも気づかないくらい、無意識の中で、私はいつもその人の名前を呼んでたんだから。

『…ビョン・ベクヒョン、さん』

「うおっ！正解！覚えてくれてたんだ！」

その人が嬉しそうに微笑む。

「で、そっちは？」

え？

「名前、俺まだ聞いてないよね？」

あぁ、私の名前か

『百瀬Aです』

私の名前なんて聞いてどうするんだろう。

「うん、いい名前だね」

もうきっと、こんな風にどこかでばったり逢うことなんてないのに。

『あ！そういえば、』

思い出して、その人と視線がぶつかる。

次また逢ったら、ちゃんとこの間のお礼をしなきゃって思ってたんだ。

『この間は本当にあり、』

そこまで言って、

「まって！連絡先交換しよ」

その人の言葉に掻き消された。

『でも、』

「これでまた会えるね」

押し寄せる波に、今にも呑まれて溺れそう。

息が上がって、心臓がバクバクする。

私と、会ってくれるの？

「ごめん、俺もう行くね。じゃあまた今度」

キラキラした笑顔を私に振りまいて、その天使は店の奥に消えていった。

やだなぁ、

私いま、絶対にやけてる…