人魚姫1 (ページ39)

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「傘、持ってないや」

天気予報なんて気にしてなかった。

そんな余裕、俺にはなかった。

『ギョンスさんー！』

赤い傘をさして走ってくる彼女は、持ってきたビニール傘を俺に手渡して言う。

『濡れちゃいますよ』

ほら、その笑顔がまた俺をかき乱すんだ。

「ありがとうございます、」

こうやって平気な顔して笑ってるけど、俺の中に余裕なんてないよ

『雨、ひどくなる前に渡せてよかったです』

ねぇ、どうしたら俺のものになりますか？

『日曜日、私も楽しみにしてます』

面映ゆいその表情に、伸ばしかけた手を握る。

両手、塞がっててよかった。

じゃなきゃ、普通に抱きしめてた。

「じゃあ…」

『はい…』

地面を叩きつける雨が、彼女の言葉を消してゆく。

何かを言おうとした彼女は、少し悲しそうに微笑む。

「どうかしましたか？」

そんな声もかけられない俺は、自分の激しさを隠すように、降りしきる闇へ歩みを進めた。