人魚姫1 (ページ36)

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彼女は一瞬驚いた顔をして、

『ギョンスさん…？』

と確認するように恐る恐る俺の名前を呼んだ。

そのふとした瞬間に、胸が熱くなる。

名前を呼ばれただけ。

それだけで、こんなにも鼓動が早くなる。

「こんにちわ」

平然を装って微笑む俺に、多分彼女は気づいてない。

なんて事ない会話のひとつひとつ。

その中で、彼女がくすっと微笑んだりムキになって唇を噛み締めたり、恥ずかしそうに頬を赤らめたりするから。

そのせいで俺は、息が詰まりそうだ。

彼女の考えてる事が手に取るように分かるのも、きっとこの気持ちのせい。

彼女と別れ、1人で歩く帰り道。

家に帰るだけのその道のりも、俺にとっては大切なものみたいに輝いて眩しい。

彼女と出会って、俺の中で何かが変わりつつある。

「なんか、最近ギョンス変じゃない？」

そういえば昨日、チャニョルに言われたっけ。

「なにが？」

「んー。なんて言うか、最近やけに楽しそう！ひとりでニヤついてるし…」

「うそ、」

まじかよ、って。

さすがにそれはキモい。

彼女と出逢ってまだ1週間ちょっとしか経ってないのに、俺は随分変わったみたい。

「でもなんか、前以上に穏やかになった」

悪い意味でも、いい意味でも。

「なんかあった？」

首を傾け、俺の瞳を見つめるチャニョル。

「んー。なんもないよ」

そう言ってチャニョルから目を逸らしたのは、なんだか俺の内側を覗かれそうな気がしたから。

今はまだ、誰にも知られたくない。

この気持ちは、俺の中でしまっておくべきだと思うんだ。