人魚姫1 (ページ31)

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え…、

きっと、その人のことを考えていたせい。

開いた扉から天使が現れるんじゃないかって、変な期待が胸を高鳴らせる。

『いらっしゃいま、』

最後まで言おうとして、扉の奥からコウさんが現れた。

『…なぁんだ、コウさんか』

「おい、どーゆう意味だよ」

『なんでもなぁ～い』

「お前なぁ、ここは俺の会社だぞ。暇してないで働け」

コウさんはそう言って私の頭を小突いた。

『いたっ、暇してるんじゃなくて暇なの』

同意を求め、リン君に「ねぇ～」と言ってみたが、リン君の顔には関わりたくないですの文字が見て取れた。

「あぁ、そうだ」

私の言葉を受け流し、思い出したような声を出したコウさんは、私とリン君を交互に見たかと思ったら

「カイバイボで負けた人、昼飯の買い出し」

と、真顔で言い放った。

「うわっ、またそれすか」

嫌そうな顔したリン君が、「ぜってぇ負けねぇ」と両手を合わせて願掛けを始める。

『え、私行きたくないし、そんなのしな、』

しないからって言う私の言葉を遮ったのは、リン君の突然の掛け声。

「カイ・バイ・ボ！」

そんなんいきなり言われたらさ、心の準備なんて全然できてないし、体は勝手に反応しちゃうしで。

「よっしゃぁ～！！」

馬鹿でかいリン君の叫び声が、余計に私の心をえぐる。

『くそぉ…』

リン君にしてやられた。

普通に負けた。

「んじゃ、Aさん買い出しよろしくです」

ずるいな、この男子高生。

こういう時だけ可愛い笑顔見せやがって。

「よろしく～」

リン君の後ろでひらひら手を振るコウさんは…うん、全然可愛くない。

『いってきます…』

あからさまに機嫌の悪くなった私は、財布とスマホを持ち店の扉を開けた。

「あ、酒も買ってきて～」

扉が閉まる数秒前、私の背中にコウさんの言葉が当たったけど、それは聞こえてない事にしようと思う。