人魚姫1 (ページ28)

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「これ、お願いします」

ぼーっとしていた私の視界に、いきなり現れた骨ばった手。

『え、あ、はい』

渡されたDVDを受け取り、急いで会計をする。

会計中、3枚あるうちの1つが、さっき彼と話していた新作のDVDだと気づく。

ハッとして。

確認しようと見上げた視線の先、彼はそこで優しく微笑んでいた。

『返却は3日後になります、』

心臓の音が、彼に聞こえてしまうんじゃないかって。

そんなこと考えるくらい、大きな音を立てている。

「明後日、また来ます」

彼は、なんで私にそれを言ったんだろう。

『お待ちしてます。ありがとうございました』

私は、なんでこんなにドキドキしてるんだろう。

遠ざかる彼の背中を見つめ、思う。

彼がこの店に入って来た時、私は彼が誰だかわかった。

ここの常連さんだと気づいた。

覚えていた。

さっきの人は、覚えてなかったのに。

私、彼のことは…

ねぇ、なんでこんな気持ちになるの？

どうしてこんなに、胸がざわつくんだろう。