人魚姫1 (ページ24)

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『いらっしゃいませ』

今日は、コウさんがお休みの日。

だから、リン君と2人きりなんだけど、リン君はたった今休憩に入っちゃったから、店番をしているのは私ひとりになった。

もうレジの時計は22時を回っている。

黒髪の小柄な男性が入店してきた。

あ、リン君が常連さんだって前に言ってた人だ。

私がここでアルバイトを始めてからよく見かける人。

彼は、白の面積が広い、大きな目をしていて。

私より少し身長が高くて、物静かそうな人。

『いらっしゃいませ』

笑顔でそういった私に、彼は頭を少し下げてペコリと会釈すると店の奥に行ってしまった。

なんだか今日はすごく暇だなぁ

店内のお客さんは、私が確認できる人だけで3.4人しかいない。

レジに来る様子もないし、ずっとここに立っているのも暇だから、取り敢えず返却されたDVDを元の棚に戻すことにする。

えーっと、このDVDはあっちだったような…

まだ位置を完璧に把握していないせいで、キョロキョロしながら店内を回る。

『あっ！あった！』

持っていた最後のDVDを棚に戻し、レジに戻ろうと顔を上げた時、

っ、え…

きれいな瞳と、ぶつかった。

『っあ、』

なんて声をかけたらいいのか、それともかけないのが正解なのか、どうしたらいいのか分からない私は、時が止まったみたいにその場で固まった。

「…どうも。」

長い静寂の後、声をかけたのは彼の方だった。

『あ、ど、どうもです…』

上手な返しが分からず、不自然な返答になった私。

『よく、』

無意識のうち、私の口が言葉を続けた。

『よく来られるんですか、ここ』

「あ…はい。映画、好きなんです」