人魚姫1 (ページ18)

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「っえ、」

それは一瞬の出来事だった。

強引に持たされた紙袋に困惑していると、彼女はそれじゃあ、とだけ言い残し、走って行ってしまった。

小さくなる背中を見つめ、

「…なまえ、聞き忘れた」

そう溢したのは無意識だった。

タクシーの中で自分の事を話しすぎたかな？

変な奴だと思われて逃げられたのか？

でも、名前聞かれたし…

てか、タクシー降りる時、どうして彼女は降りたくないと訴えるような瞳を俺に向けたんだろう。

本当に、掴めない不思議な人だった。

また会えるだろうか。

そんな言葉が頭の隅で疼きだし、

「あっ！やばっ、遅刻する！」

震えていたスマホの「もう着きました？」というマネージャーからのメッセージを見つめ、現実を思い出す。

彼女のせいで、とことんついてない日が不思議な日に名前を変えてしまった。

本当に、変な人だった。

本当に、名前くらい聞けばよかった…