人魚姫1 (ページ15)

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その人は、よく喋る人だ。

目的地を目指し走るタクシーの中、その人は別に私から質問したわけでもないのにペラペラ自分のことを語っていた。

こんなにプライバシーのない人がいるのだろうか。

兄がいて、すごい優しいとか、

歌を歌うのが好きだとか、

SFやアクション映画観るのがすきとか、

嫌いな食べ物はきゅうりだとか、

とにかく、なんだか楽しい人だなと思った。

私よりもきっと年上なのに、私よりずっと幼い顔で笑う。

「…たよ」

『え？』

気づくと、私に話が振られてたようだ。

私の顔を覗くその人と、視線がぶつかった。

「着いたよ、目的地」

そう言われて、タクシーが動いていないことを知る。

あ、着いたんだ

なぜだか体が重くて、私の足が外へ出たくないと拒否していた。

「行こう？」

いつの間にか敬語が抜けて、友達みたいに親しい話し方に変わっていたその人の声が、私をゆっくり外へ押し出す。

『あ、お金、いくらでしたか？』

タクシーを降りて、私が立ち止まる。

「いいよ、気にしないで。てか、俺がぶつかったからお詫び」

私の前を歩くその人が、振り向いて言う。

『あの、いやでも、』

名前も知らない人に、借りをつくってしまうのは複雑だ。

『なまえ…』

「ん？」

『せめて、名前、聞いてもいいですか？』