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「して、意外じゃったな。依り代(よりしろ)が非術師を助けるとは」

『…私達の仕事は、元々非術師を守るためにあるから』




後ろに組んだ手で、左手の手袋を軽く引っ張った。
じっくりと言葉を吟味している様子の件だが、次に言いたいことはわかる。


私だって、気付いていたのだ。




「__汝も、非術師の存在意義について疑問を持っていると思っていたのじゃが」




違うか?と左目を閉じ、右目だけで件は私に問うた。
自然と後ずさった軌跡をなぞる波紋に視線を落として、私は間を埋めるように唇を湿らせた。




『別に、自分の中で納得いく答えが見つかった訳じゃない。

今だって、非術師数百人の命と高専の誰か一人の命を天秤にかけられたら、私は高専の誰かを選んでしまうかもしれない。
ただ…』

「ただ、なんじゃ」

『…ここには、私の五条先生(道標)がいないから。

世間一般的な倫理観に従って動くしかなかっただけ』




一度、仮にだけ奪われた後輩の命を見て考えた。


これからも失っていくであろう大切な人々の命。
記憶の中で笑っていた誰かが、邪悪な存在によって奪われてしまうのは何故なのか。

呪術師(こっち)にいる私が大切に思うのは、呪術師の命だ。非術師じゃない。
そんな我々呪術師が命を削り、減らしても殺してもわらわらと湧いてくる呪いには、根本的な解決が必須である。



ならば、呪いを生み出す愚かな非術師()を一人残らず殺してしまえばいいのだと。



極端で横暴で到底達成できないであろうその目標は、疲れきった心身には希望に見えた。
そうすれば、大切な人々が誰も死なずに済み、もう見知った誰かの死体を見て涙を流すこともないのだ、と。
けれど理性がそれをバカバカしいと投げ捨て、また地道に自分の心を削っていく道へ戻った。



だから、五条先生は私にとっての道標だったのだ。

幼い私の命を助け、育ててくれた。
腐りきった呪術界に革新の風を吹かせ、最強の名を腐らせることなく新しい未来へ動き出している。



その人に着いていけば、私の希望は見えていたはずだった。





はずだったのに。




ここにはあの人がいないのだ。

#→←私じゃない



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改革 - 面白かったです。イラストも綺麗で感動しました (4月18日 9時) (レス) @page50 id: bf669bb16c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:なぎしば | 作成日時:2022年12月26日 21時

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