▽ ページ8
．
「＿＿＿あ」
『っ』
華の金曜日を翌日に控えた木曜日。
気まずさから、この一週間なんとか会わないように
祈りながら過ごして来ていた元彼＿＿＿チョン・ジョングクと、
休憩時間にばったり出くわしてしまった。
驚いた顔のまま固まった彼に、Aは顔を引き攣らせる。
くりくりとした丸い瞳には彼女しか映っておらず、
Aはそれを嫌うようにその場を立ち去ろうと歩調を早めた。
しかし黙って許されるはずも無く。
顔を隠すように耳にかけた髪を抑えていた腕を掴まれ、
問答無用で彼に引っ張られる。
『ちょ、ちょっと！』
「いいから」
ジョングクに引っ張って連れてこられたのは、人気のない階段の踊り場。
白い壁に囲われたそこで離された腕を守るようにして組み、
疑問から眉根を寄せる。
「…ヌナ、久しぶり」
付き合っていた時は毎日聞いていた声は
どうしようもないほど耳に馴染んでしまっていて、
Aは『一週間なんてそんな久々じゃないでしょ』
という悪態を飲み込んだ。
懐かしく思えてしまった声に、
胸のなかにまだ僅かに残った愛情が主張を始める。
あるいは、もしかしたらそれは《愛情》という名の《後悔》なのかもしれないが。
静粛に包まれたこの空間で彼の静かな声はよく反響した。
『…ホソクから、泣いてたって聞いたけど』
ぶっきらぼうな自分の声に、自分自身のことながらも驚く。
ようやっと絞り出された言葉は低く、怒気を孕んでいるようにも聞こえた。
「ぁ…ごめんね、ヌナ。
今更、やり直そうなんて女々しいこと言うつもりはなくて」
『じゃあ、なに？』
大きな体を目一杯小さくするように肩をちじこませたジョングクは、やはり幼い。
多分、Aにとって、彼はジミンの言う通りタイプではなかったのだ。
逡巡するように彷徨う視線に、Aはただその先の言葉を待つ。
いつだって、そうだった。
彼女はいつでも受け身で、ジョングクが能動的に動くのを待つだけ。
告白も彼からだし、デートも彼から。
さよならだって、告げたのはAでも、切り出そうとしたのは彼だった。
「＿＿＿＿パク・ジミンは、やめといた方がいいよ」
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 207人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「BTS」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：なぎしば | 作成日時：2022年1月21日 16時
