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ホソクに連れてこられたのは、
タクシーに乗り込んで数分の小さな商店街＿＿＿の、
更に小さな込み入った路地に入った居酒屋だった。
こじんまりとしたそのお店はホソクの行きつけらしく、
なにやら店主らしきおじいさんと親しげに話している。
しばらくしてお通しが運ばれてくると、
「ゆっくりしていってね」と今度はおばあさんが出てきた。
夫婦で営業しているのか、Aは礼と共に小さく頭を下げ
ホソクが目の前に置いた手書きのメニューを覗き込む。
『だいぶいっぱいあるね』
「でしょ？
常連しか来ないから、もうほとんどおばあちゃん家の食卓って感じなの。
なんならメニューに載ってないのまで作ってくれるよ」
『逆にこのメニューの中に載ってないのを探す方が大変でしょ…』
達筆な文字で書かれた品書きはびっしりと黒で埋まっていて、
恐らく定番の韓国家庭料理は網羅しているのではないだろうか。
日本料理や中華料理もあるし、
壁に立てかけてある年季の入った木製の板には一風変わったものまであった。
一見想像のつかないメニューに興味が引かれるが、
冒険に出てろくな目にあったことがない。
Aのチョイスにもよるのだろうが、こういう時は無難なものを選ぶのがベストだ。
『…じゃあ、とりあえずトッポッキ』
「ん、俺は…いつものでいいや。飲み物は？ビール？」
『うん。ホソガも？』
もちろん、と頷いた彼は人の居ない厨房に向かって「おばちゃーん」と叫んだ。
するとすぐに先程のおばあさんが出てきて、注文を聞き取る準備をする。
「いつものと、あとトッポッキ、ビール二つで」
さらさらとメモをとる彼女の指を目で追っていると、不意に視線を感じて顔を上げる。
するとパチリと目尻の垂れ下がった柔らかい目と目が合って、思わず口をきゅっと結んだ。
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作者名：なぎしば | 作成日時：2022年1月21日 16時
