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「ヌーナ」
『わっ』
する、と鞄に伸ばされたAの腕を掴んだのは、
いつの間にか至近距離に来ていたジミン。
彼はそのまま手を滑らせ、
彼女の手を握ると既に空席となっていたホソクとは反対のデスクへと腰かけた。
かわいらしい見た目の彼の手は
それでもAの手をすっぽりと包めるほどには大きく、
それと同時に思わず鳥肌が立つほど冷たい。
「早く帰ろ、仕事終わってるでしょ」
『え、でも今日一緒に帰れないって伝えたでしょ?』
彼女の手を弄ぶかのように握っていた手が不意に離され、
ジミンの膝に乗せられていたそれは呆気なく宙へぶら下がった。
少しだけ突き出たジミンの薄い唇。
重たい瞼から覗くうるうるとした目が、不機嫌に細まった。
「昨日も帰ってくれなかったじゃん」
『…それは』
気まずくて、という勇気はない。
Aが口籠れば、ジミンは首を傾けてそれを覗き込んでくる。
そしてAをじっと捕らえて離さないように目を合わせたまま、彼の手が伸びてきた。
徐々に近づいてくる指先に自然と体は強張り、
けれど宙に投げ出された手は依然だらりと垂れ下がったまま。
何を考えているかわからないジミンが怖くて仕方がない。
けれど、そんな彼に振り回されるのを期待している自分がいる。
だから、ただ黙って、彼を受け入れようとした。
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作者名:なぎしば | 作成日時:2022年1月21日 16時