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会計をするために立ち上がったジミンに腕を引っ張られ、
Aもよろめくようにして立たされた。
それから、革張りの小洒落た財布を取り出したジミンの腕を慌てて止める。
『ジミン、いいよ。私が払うから』
「こういう時は男が持つの」
『でも、私が誘ったし』
「あのさ、僕が安月給じゃないの知ってるでしょ？
こんくらいなんともないから」
身長差により遠ざかったジミンの目がAから逸らされ、
それは彼が譲る気がないことの表れで強制的に口を閉じさせられた。
確かに先程の言葉通り彼は高収入の枠組みに入るほどには稼いでいる。
それは、Aも同じ企業に務めているから言えることなのだが、
彼を立てるためにもここは大人しく奢ってもらった方がいいだろう、と酔いの回った頭で考える。
それと、次ジミンが家に来た時にお礼の名目で振る舞うメニューの献立も。
『私の理想が高いのは、ジミナのせいだよ』
「僕が完璧ってこと？」
『そう。
ジミナが、私に夢を抱かせてるの』
騒がしい居酒屋から一歩踏み出れば、ネオンの輝きが目を刺激する。
週末、休みを控えたサラリーマン達で人出が増え、
夜の十時をすぎても街の喧騒は止むことを知らない。
緩められたネクタイ、そして覗ける白い首。
男らしく筋の入ったそれを見て、ふいと顔を背けた。
「…ヌナが心配なだけだよ」
呟かれたジミンの言葉に、Aは『ジミナは昔っから心配症だもんね』と笑って返した。
ケラケラと笑う声とともにジミンに背を向けて歩き出してしまったAの視界に、
ジミンの歪められた口元が映ることは無かった。
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作者名：なぎしば | 作成日時：2022年1月21日 16時
