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首を持ち上げないと見えない位置で言葉を交わす二人に、Aは身の危険を感じた。
ジミンの綺麗に持ち上げられた口角は、笑っていない証拠。
黒い瞳ははっきりと相手を捉えていて、いつもの糸目ではない。
「…いえ、何も。それじゃあ、僕は失礼します」
威嚇するようなジミンの視線に、ジョングクは片眉を上げ答える。
ひらりとかわしてみせた彼はぺこりと頭を下げ、Aを一瞥してから階段に足をかけた。
まだ下ろしたての糊のきいたスーツがジョングクの広い背中を強調し、
ラインに沿ったシルエットは彼の筋肉質な体格に目立つくびれをなぞる。
久しぶりにしっかりと見たその姿は嫌という程目にこびりついて、
Aは自分の中で奔流する感情を押し込むように息を止めた。
「…余計なことしなくていいから」
一際強くジョングクのソールが階段を叩いた瞬間、
腕を伸ばし彼の肩をぐっと掴んだジミン。
大きく踏み出したジミンの一歩と、引き寄せられたせいで
大きく傾いたジョングクの体は一気に距離が縮まる。
その瞬間、囁くようにして放たれた言葉は確かにジョングクの鼓膜を揺らした。
溶け込むようにして消えたそれは、不意だったこともありAの耳には届かない。
二人の間だけで交わされた言葉は、二人にしか理解できない言葉だった。
「＿＿＿わかってますよ」
最後に映ったジョングクの表情は勝気な笑みで、短い単語が静かな踊り場に残響する。
無機質な足音が完全に消え去ってから、
呆然としていたAの腕をジミンが掴み「いこ」と続くようにして歩き出した。
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作者名：なぎしば | 作成日時：2022年1月21日 16時
