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『…それは、』
「それとも、僕が理想の男だから、僕を信頼して言ってるの？」
『＿＿＿』
「…じゃあ、僕は何をしないようにすればいい？」
回りくどい二人の会話は、互いを探りあっているようだった。
じっと自分を見つめてくるジミンと目があって、彼の黒瞳の中に映る自分を見つめる。
彼と目が合っているはずなのに、彼女の目に彼は映っていない。
ただ情けない顔をした自分だけが、意識を支配した。
『…いっぱいあるんだよ』
言いたいことは。
最後だけは口の中で零して、音になることはなく消える。
例えば女の子の家に転がりこまないとか、
飲みすぎないとか、
一緒に布団で寝るとか。
けれどそれらは、いずれも簡潔に表せることが出来た。
きっとこれが本心。
目の前の完璧な男は、ただ黙ってこっちを見つめている。
逃げるのは、許されない。
『他の女の子に、思わせぶりなことしちゃダメだよ』
口にしてしまえば簡単だった。
案外すんなりと出てきてしまったそれには、余裕があった。
《かわいい幼なじみ》への注意。
そうやって、自分に言い聞かせてしまえばなんてこと無かったのだ。
そうだ、ジミンは自分のかわいい幼なじみで、弟。
そう思ってしまえば、誤魔化してしまえば、笑うことだってできた。
『ジミナにそんなことされたら、女の子たちは勘違いしちゃうよ』
Aの唇はお手本のような綺麗な弧を描いた。
ジミンは彼女を見て一瞬呆気に取られた後、同じように笑みを浮かべる。
まるで、馬鹿だな、と嘲笑うように。
「そんなこと、ヌナは心配しなくていいんだよ」
ジミンの愛らしい手が伸びてきて、寝起きの髪を一度撫でる。
微かに染められた彼女の髪を指で梳き、毛先を弄ぶようにくるりと回した。
そのまま彼の体が傾いて、彼女の肩に頭を預け深く息を吐いた。
「僕はずっとヌナが大好きだから」
歯が浮くような甘ったるいセリフ。
いつもの彼とは思えないような言葉に動揺を隠せなくて、
彼を受け入れようとした手は宙をさまよった。
一度手のひらが空を掴んだ後、
Aは鼻で息をつきジミンの短い髪に指を通す。
硬い感触は小さい頃から変わらない彼の髪質で、それに安心しながら目を伏せた。
ジミンの遠回しな愛の確認作業に気付いても、答えることはしなかった。
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作者名：なぎしば | 作成日時：2022年1月21日 16時
