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．
『すいません、
奢って頂いてしまって』
「いえ、誘っておいてお金出させるなんて
格好悪い真似できませんよ」
そう言って微笑んでくれるユンギさんは
断り方さえスマートだった。
ズボンの後ろポケットから
出した財布も真っ黒の革製で
イメージ通りだったし、
迷わずブラックコーヒーを
選んでたのも格好いい。
私は彼に買ってもらったカフェラテを
天気がいいしせっかくだから、
とテラス席に座り早速一口いただく。
インスタント以外のコーヒーは久々で、
お店で飲むものはこんなに美味しいのかと驚く。
「…美味しいですか？」
『…え？！あ、はい！』
あまりに優しい視線で
こちらをみていたものだから、
一瞬自分に聞かれているとは
思わなかった。
良かった、
と自分も一口飲むユンギさんに、
まるで恋人みたいだと、
失礼すぎる錯覚を抱く。
煩悩は捨てよう、
と再びカフェラテを飲むと、
彼が「ていうか」と
前置きして続けた。
「多分俺たち、同い年ですよね。
敬語、外してもいいですか？」
『え、93lineなんですか？』
確かに大人っぽいけれど、
それでも若さが目立つ彼。
そんな彼が私とは
同い年だと思えず問えば、
彼は間を置くこともなく頷いた。
私が納得したように
「そうなんだ…」と呟けば、
彼は持っていたカップを
テーブルの上に置き、
タイミングを
待っていたかのように切り出した。
．
「…Aって、
画家だよな？」
確信をつくような、
迷いの無い言葉。
名前を呼び捨てに
されたのが気にならないほど
その言葉は想定外で、
思わず手が止まり
ユンギさんの目を見つめる。
「…貰った絵はがきに、
Aの名前があって。
手を見た時にも、
もしかしたらそうなのか、って」
その言葉に
自分の手のことを思い出して、
今日は見られても平気なはずなのに
思わず隠すように手を握る。
確かに、あのはがきには
作品名とともに作者の名前も
掲載されていたはずだ。
ならば職業が気付かれても
仕方がないが＿＿＿やはり、
名前の件は私が覚えていないだけで
自ら伝えたのだろう。
…だって、そうでなければ、なんなのだ。
．
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作者名：なぎしば | 作成日時：2021年12月2日 21時
