油彩画【YG】 (ページ6)

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『あの、ユンギさん＿＿＿』

その時、胸元に入っていた携帯がなる。

幸いそこまで大きな音では
なかったものの、
静かなここにその音はよく響いた。

人々の視線が
集まるのを感じて私は萎縮し、
ユンギさんにぺこりと頭を下げる。

目を細めた彼は、
相変わらず完璧な笑顔で笑った。

『すいません、
自分一応関係者で、多分仕事が』

「いえ、こちらこそ
時間取らせてすいませんでした。

…じゃあ、また、Aさん」

『はい、ユンギさん』

《また》があるかも分からないのに
短く挨拶をしてすぐに
振動し続ける携帯にかけ直す。

低めのヒールが付いた
パンプスを鳴らし、
後ろ髪を引かれる思いで
急いで裏へと回る。

その時、ふと気付いて、
ユンギさんがいたところを振り向いた。

そこには誰もおらず、

ぽっかりと空白があるだけ。

私たちが話した証拠は、どこにもない。

『…気のせいか』

確かにあの時、彼は私の名を呼んだ。

でも、私は名前を教えた記憶が無い。

まあ、
教えたこと自体を
覚えてないっていう可能性も、
十分に有り得るんだけど。

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